研究課題/領域番号 |
25440060
|
研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
小亀 浩市 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (40270730)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | タンパク質品質管理 / 小胞体 / プロリン異性化酵素 / ADAMTS13 |
研究実績の概要 |
タンパク質を構成するプロリン残基のシス-トランス異性化は、peptidyl-prolyl cis-trans isomerase(PPIase)という一群の酵素によって触媒され、タンパク質のフォールディングと機能発現に重要である。本研究では分泌タンパク質の品質管理におけるPPIaseの役割に着目し、シス型プロリン残基をもつ分泌タンパク質のフォールディング過程と分解処理過程に関する解析を行っている。我々は、メタロプロテアーゼADAMTS13の基質認識を担うDTCSドメインに4個のシス型プロリン残基を同定した。前年度は、シス型プロリン残基をもつ分泌タンパク質のモデルとして組換えADAMTS13-MDTCSドメイン(MDTCS)を利用し、PPIaseの関与を調べた。MDTCS発現細胞をシクロスポリンA存在下で培養するとMDTCS分泌量は減少した。細胞を小胞体PPIase B(= CypB)のsiRNAで処理するとMDTCS分泌量は減少したが、細胞質PPIase A(= CypA)のsiRNAでは効果が弱かった。つまり、MDTCSの分泌にはプロリン残基のシス化が必要であり、それは主にCypBが担うことが明らかになった。本年度、MDTCS発現細胞にCypBおよび不活性型CypB(R95A変異体)を過剰発現させたところ、MDTCS分泌量は変化しなかった。小胞体に内在するCypB量は十分であり、不活性型CypBは正常CypBの働きを阻害しないらしい。CypBのsiRNA存在下、あるいはシクロスポリンA存在下で培養したMDTCS発現細胞では、MDTCSの分泌量は減少するものの、細胞内には蓄積しておらず、さらに小胞体関連分解(ERAD)阻害処理でも細胞内の量は変化しなかった。つまり、CypB機能低下に伴うMDTCS分泌量の減少にERADは強く関わっていない可能性が考えられた。また、マウス個体に対するシクロスポリンA投与の効果を、血中ADAMTS13活性を指標にして調べたが、非投与群に比べて有意な差は見られなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度は、分泌タンパク質であるADAMTS13の小胞体における正常なフォールディングにプロリン残基のシス-トランス異性化が重要であることを証明し、その異性化に関与する酵素を特定することを主な目的としていた。前年度のうちにその目的はほぼ達成していたが、今年度はそれを裏付ける実験を追加した。さらに、小胞体の主なPPIaseであるPPIase B(= CypB)およびその不活性型(R95A変異CypB)を過剰発現させる培養細胞実験系の解析を行った。その過程で、PPIase Bに関する多くの論文にアミノ酸配列上の誤り(あるいは誤解)があることに気づき、少し時間的な損失につながった。マウス個体を用いた実験では、想定したものとは異なるデータが得られたため、次年度は実験プロトコールのさらなる検討や、想定外の機序を考慮した解析を行う必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の計画立案当初は、初年度の研究実績をベースに論文を作成する予定であった。しかし、着想の相違はあったものの、米国の研究グループからきわめて類似した内容の論文[Hershko et al, JBC 287, 44361-44371 (2012)]が発表されたため、平成26~27年度のデータも含めた形での論文化を想定して解析を進めている。平成26年度にはマウス個体を用いた実験を開始した。まず、野生型マウスにシクロスポリンAを投与した後、血中ADAMTS13活性を測定し、CypB機能異常の影響を調べた。しかしながら、血中ADAMTS13活性に有意な変化は見られなかったため、シクロスポリンAの投与方法等を検討したが、有効なデータは得られなかった。そこで、CypBのsiRNAや発現ベクターをマウス個体に導入する実験を行う予定にしている。siRNAやDNAの導入には、すでに我々が成功実績をもつin vivoハイドロダイナミクス法を使用する。シクロスポリンA投与よりもダイレクトにCypBの機能を制御できるため、ADAMTS13等の分泌タンパク質に対するCypBの関与が解析しやすくなると期待している。本年度の実験では、ERADとCypBの関連を示す明確なデータは得られなかった。しかし、予備実験では関連が示唆されているため、次年度にはそれを確認する予定である。本研究計画には、小胞体PPIaseの研究に適したモデル基質の開発を含めている。これに関してはまだ開始できていないため、次年度の重要課題としたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
費用面での効率を積極的に考慮しながら、消耗品の使用量を可能な限り減らして実験を実施し、その結果、物品購入等による支出は計画立案当初のほぼ予定通りとなった。前年度(平成25年度)に生じた次年度使用額(平成26年度使用額)があったため、その一部に相当する金額を次年度(平成27年度)に使用することが可能となった。次年度の実施計画に予定以上の費用がかかる可能性を考慮したことも一因である。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究計画には、実験に使用する消耗品等の購入やマウスの飼育にかかる費用、使用する薬剤等について、本年度以上の出費が予想される。したがって、今回生じた次年度使用額の多くを、実験に要する物品の購入に充当する予定である。
|