研究課題
生体分子の局所的温度制御および温度計測を行うため、カーボンナノチューブ(CNT)へのレーザー光照射を用いた温度制御システムについての研究を以下のように行なった。1)アクトミオシンの局所温度制御:昨年度までに行った赤レーザーを用いたCNT照射システム開発およびアクトミオシン活性制御について、論文を投稿した。4人のレビューアーの指摘を受け、追加実験も行うなど、様々な改良を加えた結果、ACS Nano誌に掲載予定なった(2015年4月号)。2)より局所的な温度制御の検討:従来170nm直径のCNTを中心に実験を行ってきたが、より局所的な温度制御を実現するためには、さらに微小な熱プローブの導入が必要不可欠である。そこで、直径2 nmから170 nmのCNT20種類を検討した。アクトミオシン実験に必要な長さ~10umを得られたのは4種類のみであり、その中でも水溶液中で1本ずつ観察できるものは、3種類であった。このうち最小のものは59 nm直径のCNTであり、CNT1本上での速度変化を検出したが、予想された温度上昇より3倍程度低めになった。3)微小管系モーターの局所温度制御:アクトミオシンでの計測と同様にキネシンを用いた実験を行った。キネシンをCNT上に固定し、レーザー照射による速度上昇を検出しているが、CNT1本上ではまだ成功していない。4)バクテリアべん毛モーターの局所温度制御:細胞レベルでの応用を念頭に、CNTからガラス経由で伝わる熱を利用して、べん毛モーターの回転速度制御を検討した。CNTへのレーザー照射によって、べん毛モーターの回転に劇的な変化が見られたが、予想された速度上昇ではなく、速度低下および完全な停止であった。これはCNTへのレーザー照射による活性酸素によるものと思われ、温度による活性化だけでなく、活性酸素による不活性化も可能であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
昨年度開発した計測系を用いて、アクトミオシンの運動活性制御および局所的温度分布制御に関する論文がACS Nano誌に掲載予定となった。この論文は本研究の主要テーマについての研究であるため、意義が大きい。微小管系モーターを用いた計測はまだまだであるが、より局所的温度変調を目指した、より細いCNTの検討や、細胞レベルでの応用を目指したべん毛モーターを用いた計測の取り組み、および熱伝導計算技術の改良など、全般的に研究は順調に進展していると思われる。
キネシン-微小管を用いた計測について、CNTおよび金ナノ粒子を用いた温度変調実験を行う。温度変調をより局所的に行うためには、プローブがより微小であることが重要であるが、CNT直径については、60nm程度が限界であったため、金ナノ粒子10-250nmを用いた実験系の開発、およびシミュレーションでの検討が必要となる。小さな金粒子の場合は、キネシンの導入だけでなく、金粒子の高速フレームレートでの可視化、光熱変換効率等の問題が予想される。また、細胞レベルでの現段階でのアプリケーションとして、べん毛モーターを用いた計測を引き続き行う。レーザーのCNT照射による活性酸素が原因と思われる活性低下がみられているため、脱酸素剤等を用いながら、可逆的な負の制御と、局所的温度による正の制御の両面を検討する。また細胞内1分子温度制御システムの構築を目指して、ナノプローブの細胞内導入についても検討を始めたい。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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