本研究は、アルツハイマー病の主要な原因と知られるタウタンパク質の神経原線維変化(NFT)の形成を標的とし、このNFTの形成抑制、また、その結果としての微小管の安定化とアルツハイマー病の発症抑制を目指した。この目的のため、本研究では、近年明らかになってきたPin1やFKPB等のプロリン異性化酵素とタウタンパク質との特異的な相互作用に注目した。特に、Pin1は正常時には高凝集性を示すシス型のタウタンパク質を、低凝集性のトランス型へと構造転移をさせるとともに、脱リン酸化酵素に受け渡しているとされており、Pin1の活性向上と活性の改変は極めて有効であろうと考えた。 初年度には、まず、Pin1の改変に伴う活性変化を評価するための「Pin1の異性化活性のスクリーニング法」を確立した。さらに、Pin1の活性部位に網羅的変異を導入し、変異と活性との相関を解析することにより、活性向上への方法論の検討を行った。 次年度には、Pin1のプロリン異性化活性の向上をもたらす変異体を数種類作成することに成功したものの、プロリン異性化活性とタウペプチドの凝集化の抑制能力との相関が認められなかった。一方、ドメイン欠損変異の導入等による解析により、タウへの結合活性こそがNFTの形成抑制に効果的に機能することを見出した。 最終年度には、当初の計画に従い、Pin1の機能の大幅な改変を行った。その結果、過剰リン酸化タウタンパク質が有するpS/pT-Pモチーフを標的とするプロリン残基指向性プロテアーゼ活性の創出に成功した。ただし、タウの全長タンパク質に対する活性の解析には至らず、今後の研究で引き続き行なう予定である。また、このプロテアーゼ活性の反応効率及び特異性には、さらなる向上の余地が残されており、今後の研究においても改良を重ねていく予定である。
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