研究課題/領域番号 |
25440068
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
柄谷 肇 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 教授 (10169659)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生物発光 / 蛍光発光 / 酸化的リン酸化 / 活性酸素種 / ミトコンドリア / 大腸菌 / 発光細菌 / ホタル |
研究概要 |
初年度以下の計画研究(1)と(2)を進めた。 計画(1): ミトコンドリア(MT)シグナル配列を付加した発光細菌由来レドックス蛍光タンパク質(Y1-YellowおよびY1-Blue)をプローブとして、MTにおける酸化的リン酸化過程より生じる活性酸素種(ROS)の生細胞蛍光可視化法の高度化を進めた。これまでの実績を踏まえ酵母細胞などを用いて実験を進め、生細胞内MTにおけるROSの可視化プローブとして特にY1-Yellow が好適であることを実証した。 計画(2): 酸化的リン酸化と密接にリンクする生物発光に基づいて酸化的リン酸化を調べる手法について、遺伝子組換え生物発光大腸菌をMTモデルとして研究を進めた。青緑色生物発光大腸菌は発光細菌由来のlux operonを有する発現ベクターを用いて作製した。発光コロニーに対して酸素あるいはアルゴン負荷条件下、時間対生物発光画像データを収集した。画像データは明度を画素値とする数値解析と共に、明度画素値データを離散フーリエ変換し、得られた結果を元の画素位置にもどすことによって正規化周波数における振幅および位相画像を構築した。 特筆すべき結果は、高酸素張力条件下、発光大腸菌コロニーはコロニー外周近傍に発光リングを出現させた後、次にコロニーの中央に向かって光が集束するように伝播(数十秒間)することを見出したことである。他方、フーリエ画像解析から動的発光リング内の発光はほぼ位相をそろえて振動していることを示した。 総括すると、高酸素濃度条件下、酸化的リン酸化とリンクする生物発光反応が活性化されるだけでなく、同期的な生物発光を誘発することが示唆された。このことはまた生物発光が酸化的リン酸化の解析において有用なシグナルになることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(理由) 研究実績の概要に記載の通り、計画(1)について、研究代表者らが独自に構築してきた発光細菌由来Y1-YellowがMTにおける酸化的リン酸化副産物のROSの生細胞可視化に好適であること、且つ本科研費研究目的の達成において重要な要素技術となり得ることを実証できた。Y1-Yellowと共にMTシグナルを有するY1-Blueについても同様に評価した。酵母MTのROSの評価に好適なプローブであることは判ったが、哺乳類細胞系の場合、Y1-Blueの蛍光団リビチルルマジンを取込ませることが難しいとの結果が得られた。研究成果について、第86回日本生化学会大会などにて発表した。 また計画(2)について、発光細菌発光関連タンパク質コード遺伝子(lux遺伝子)の大腸菌発現系の安定性を改善し向上させた。結果的に大腸菌をMTモデルとする系において生物発光は細胞集団の呼吸活性を観測する有用なツールとして活用できることを示すことができた。特に発光の数値解析および離散フーリエ変換に基づく画像解析(時間空間から周波数空間への変換)により、細胞集団において発光が同期している可能性を示したことが評価できる。さらにこの同期現象が呼吸と密接に関係していることを示した点も評価できる。研究成果について、第94回日本化学会年会などにて発表した。 初年度においてホタルルシフェリンコード遺伝子(luc遺伝子)を大腸菌において安定発現させることも可能とした。ただしlux系と異なり遺伝子組換えホタル生物発光の場合、発光基質ルシフェリンの効率的な供給を達成することが課題として残った。 さらにluc遺伝子とlux遺伝子の融合遺伝子の構築について実験を進めることができた。初年度においてlux-luc遺伝子共発現系は達成、即ちlux遺伝子由来青緑色発光とluc由来黄色発光の観測はできなかったが、融合系の研究は大きく進展した。
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今後の研究の推進方策 |
Y1-Yellowプローブに基づく哺乳類生細胞(HEK細胞など)MTで生成消滅するROSの量的変動の蛍光可視化法の検討を進める。構築を目指す手法に基づいて、ROSの大量発生、MT内膜損傷、内膜脱分極、膨潤そして崩壊までの過程と、これと対抗する自己組織化によるMTクラスター形成過程の分子メカニズムを考察する。 ROS、NADHおよびATPの量的変動に着目し、酸化的リン酸化およびROSがMTの挙動に及ぼす効果を考察する。ROS、NADHおよびATPの量的変動はそれぞれY1-Yellow蛍光、Lux産物即ち細菌生物発光、およびLuc産物即ちホタル生物発光に基づいて評価する。具体には以下に記述する。 MTシグナル配列およびY1-Yellowコード遺伝子を有するlux-luc遺伝子をインサートとするプラスミドを作製する。プラスミドには大腸菌および哺乳類細胞の両系に適合するものを選択する。共発現系については、MTおよびY1-Yellowコード遺伝子をluc遺伝子あるいは lux遺伝子のそれぞれに個別に融合し、さらにプラスミドの別々のプロモーター領域に挿入するデュアル発現系についても検討する。大腸菌および哺乳類両細胞系において、安定発現条件、生物発光可視化法および蛍光可視化法の検討を進める。 可視化の実験は細胞集団即ちコロニーを対象とする。呼吸阻害条件、脱共役条件、反応基質、酸化的リン酸化関連物質などの添加条件などを変えてデータを収集する。通常、ATP生産ではNADHの消費伴われるためホタルの発光と細菌生物発光が位相をずらして出現するものと予想される。これを詳しい実験データに基づいて調べる。 総括的にはROSの蛍光可視化および哺乳類細胞あるいは大腸菌コロニーの生物発光可視化データを解析することによって、MTにおけるROSの量的変動と酸化的リン酸化活性との因果関係について詳しく考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験データの再現性と考察の適格性を高めるために論文発表を次年度とした。この結果、英文校正などの経費を次年度(H26年度)に先送りした。また初年度において人件費を計上したが、実験の進展上この経費が初年度不要となり、これも次年度(H26年度)にまわしたことによる。 論文作成に伴う英文校正とリプリント購入経費および人件費として使用する計画である。
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