酸化的リン酸化並びに高酸素濃度条件下などの酸化的リン酸化において過渡的且つ局所的に大量に発生する活性酸素種の可視化について検討を進めた。観測では発光細菌の発光関連遺伝子(lux遺伝子)で形質転換して得た生物発光大腸菌(以下BL大腸菌)を真核細胞ミトコンドリアモデルとして2015年度も使用した。これまでの実験系を改善して検討した結果、BL大腸菌コロニーに対して、酸素刺激を付加した時に同心円的に中心に向かって伝播する特異的な動的発光の観測に成功し、時間を変数として動的パターンを解析した。 解析結果より高濃度酸素条件下、酸化的リン酸化反応が細胞間で同期することの可能性が発光挙動より示唆された。この結果はまた生物発光が酸化的リン酸化のシグナルとして有用であることも実証するものである。液体培地の系においてもBL大腸菌の発光挙動を酸素濃度及び時間を変数として詳しく調べ、発光パターン形成の分子メカニズムを酸化的リン酸化反応と関連付けて提案した。成果は論文にし、投稿中(Photochem. Photobiol. Sci.)である。 過酸化水素感受性遺伝子katG'遺伝子を融合したlux遺伝子で形質転換したBL大腸菌系において、活性酸素に誘導される生物発光挙動を詳しく調べた。特に呼吸阻害を惹起する物質の摂取と発光の影響を調べた結果、一部の有害物質では添加後十数分で生物発光の惹起が認められ、lux遺伝子に起因する生物発光が呼吸作用と密接に分子リンクしていることがより詳しく示唆された。また一連の実験結果より、増殖時の呼吸活性の増大と関連して活性酸素種が多量に生じていることが生物発光をシグナルとして示唆された。 さらにkatG'を融合した発光細菌由来青色蛍光タンパク質(Y1-Blue)コード遺伝子で形質転換した大腸菌を用いた観測の結果、呼吸活性あるいは酸化的リン酸化活性の変動との関連が予想される活性酸素種を細胞レベルで可視化できる可能性が示唆された。
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