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2015 年度 実施状況報告書

蛋白質の凝集メカニズムの原子レベルでの解明と化学修飾法による安定化

研究課題

研究課題/領域番号 25440069
研究機関横浜市立大学

研究代表者

池上 貴久  横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (20283939)

研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2017-03-31
キーワード核磁気共鳴 / 凝集 / 非特異的相互作用 / 疎水的相互作用 / 安定性 / NMR
研究実績の概要

当研究の目的は、おもに疎水的な相互作用により非特異的に凝集してしまうような蛋白質について、その凝集のメカニズムを構造学的な観点から解明することである。このような凝集が静電的相互作用で起こる場合には解決策は簡単で、溶液内の塩濃度を上げさえすればよい。しかし、疎水的な相互作用で起こる場合には、この相互作用が蛋白質の立体構造を維持している主な作用の一つでもあるため、解決が非常に難しい。例えば、アルコールなどの有機溶剤や界面活性剤を数%加える方法も提案されてはいるが、しばしば蛋白質の立体構造そのものをも壊してしまう。

この目的を研究するのに適した蛋白質として、菌のバンコマイシン耐性に関与するプロテアーゼ VanX を選んだ。この蛋白質は pH を下げると正電荷の反発により単分散化し、NMR での解析が可能となるが、中性の pH 条件では疎水的な相互作用により凝集していると考えている。実際にこの蛋白質は pH4.0 の条件下で NMR の測定に成功した。また、pH6.5 ではかなり凝集した状態を示唆するスペクトルとなった。また、精製の最中に塩濃度を上げると沈殿が生じたことから、凝集は疎水的な相互作用によることが分かった。

当初の予想と少し違った点は、pH4.0 で VanX が2量体をとっていることが質量分析の結果より示唆されたことであった。つまり、NMR でのきれいなスペクトルは2量体としての安定な構造を反映していたことになる。また、その状態で蛋白質濃度を下げると、0.1 mM 程度を境にスペクトルの質がかなり劣化することも分かった。これは、濃度を下げることにより2量体が解離して単量体になり、また非可逆的に単量体が unfold したためではないかと考えている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

グラム陽性である腸球菌がもつバンコマイシン耐性に関与するプロテアーゼ VanX は、酸性 pH の条件下では単分散状態にあると考えていた。実際、NMR 実験によると、きれいな二次元スペクトルが得られた。しかし、質量分析の結果から、これは安定な2量体であることが分かった。2量体は回転対称性をもつため、NMR では単量体のスペクトルとなかなか区別がつかない。

さらに蛋白質の濃度を下げると、この2量体が解離し、続いて unfold することも示唆された。このことから、pH と濃度という2つの条件に関するパラメータで蛋白質の相図が変わるという、当初に想像していたよりも複雑な状況であることが分かった。

そこで、まずは2量体としてどのような立体構造をとっているのかを解析することとした。このデータをもとに中性 pH でどのように凝集しているのか、そして、それを防ぐためにはどのような化学修飾を施せばよいのかを正しく判断することができると考えている。

今後の研究の推進方策

今後は2量体としての構造をまずは解析する。これは一から構造決定するという意味ではない。交差飽和転移法などをつかって2量体のサブユニットどうしの境界面を知り、さらに分子間フィルター NOE などの方法から相互作用部位どうしの組み合わせを得て、結晶構造から2量体の構造モデルを組み立てることを意味する。続いて pH を上げながら、この2量体がさらにどのように凝集していくのかを原子レベルで解析する。

次年度使用額が生じた理由

研究はほぼ計画どおり順調に進んでいたが、H27 年夏頃に研究対象である蛋白質が、酸性条件下で当初に予定していた単量体ではなく二量体を組んで安定化していることを示唆する結果が出た。そのため、全体としての方針に大きな変更はないが、より精密な定量的実験をおこなって科学的証拠を得る必要がでてきた。

次年度使用額の使用計画

2量体の解析のための試薬代、および、H28 年夏と秋にそれぞれ開かれる ICMRBS 国際会議と NMR 討論会で成果を発表したいと考えている。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件)

  • [雑誌論文] The cyanobacterial cytochrome b6f subunit PetP adopts an SH3 fold in solution.2016

    • 著者名/発表者名
      Veit S, Nagadoi A, Roegner M, Rexroth S, Stoll R, Ikegami T.
    • 雑誌名

      Biochim Biophys Acta.

      巻: 1857 ページ: 705-714

    • DOI

      doi: 10.1016/j.bbabio.2016.03.023.

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Functional conformer of c-Myb DNA-binding domain revealed by variable temperature studies.2015

    • 著者名/発表者名
      Inaba S, Maeno A, Sakurai K, Narayanan SP, Ikegami T, Akasaka K, Oda M.
    • 雑誌名

      FEBS J.

      巻: 282 ページ: 4497-4514

    • DOI

      doi: 10.1111/febs.13508.

    • 査読あり

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公開日: 2017-01-06  

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