タンパク質の凝集が最近の大きな話題となっているが、原子レベルでこれを見ると、凝集と言えどもその様子は大きく二つに分けられる。1つ目は個々の分子が特定の立体構造をとらず、さまざまな、あるいは動いた構造をとったタンパク質分子がお互いに非特異的に相互作用して大きな凝集体となっているケースである。もう1つは、ある程度決まった構造をすでにとってはいるが、その構造を保ったまま集まって凝集しているケースである。その決まった構造がもともとの構造と異なるようなケースもこの範疇に入る。この二つのケースのうち後者を対象として、その凝集の物理的なメカニズムを解明することを研究の目的とした。
対象として、バンコマイシン耐性に関与する腸球菌由来の VanX を選んだ。研究を進めるにつれて、これが二量体である証拠が出始め、さらにこの VanX は濃度に依存して二量体と四量体の間の平衡が移動しているようであった。凝集を防ぐための具体的な化学修飾の開発にまでは至らなかったが、最終年度は NMR による主鎖の帰属をほぼ完成させ、二量体としての立体構造が分かりつつある。当研究は今後も継続していき、多量体を形成するメカニズムを立体構造の観点から解明する。
立体構造を保ったままタンパク質が凝集する現象は、アミロイドなど多くの病気と関連している。そのため、そのメカニズムの解明はそれらの病気の解明につながる。また、大腸菌発現系における封入体(inclusion body)の実体についてもあまり良く分かっておらず諸説が出されているが、この解明にも役立つであろう。また、多くのタンパク質が自発的に複雑な複合体を形成する系において、その組織化の物理的メカニズムには今回の凝集のメカニズムと共通している要素も多い。このことから、当研究は生体内における純粋な生命科学の解明にもつながると考えている。
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