研究課題/領域番号 |
25440075
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
桑島 邦博 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (70091444)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | フォールディング / 速度論 |
研究実績の概要 |
本研究では、フォールディング速度定数が実験的に明らかにされている二状態蛋白質と非二状態蛋白質を対象として,速度データと立体構造との間の相関解析を行い,非二状態蛋白質のフォールデイング分子機構の解明に寄与することを目的としている。27年度の研究実績を以下に示す。
(1) フォールディング速度データの収集と既存データベースとの比較:昨年度に引き続き,学術論文調査を行い,蛋白質のフォールディング速度定数(kf)のデータを収集した。既存の蛋白質フォールディング速度データベースである,ACPro (Wagaman et al. (2014) Protein Sci. 23:1808-12) および Garbuzynskiy et al. (2013) (PNAS 110:147-50) のデータベースとの比較を行い,既存データベースの修正等を行った結果,最終的に,46個の非二状態蛋白質と77個の二状態蛋白質の計123エントリーからなる速度定数データベースを構築した。現在までのところ,われわれのデータベースが最もアップデートされたエントリー数も最大のものであり,将来,蛋白質フォールディング速度の予測研究や理論的なモデル構築に用いられることが期待される。
(2) 立体構造コンタクトマップの作成とフォールディング分子機構の解析:非二状態蛋白質と二状態蛋白質のそれぞれについて,昨年度導入された,ロジスティック関数に基づく非局所的コンタクトクラスターの解析を行い,各蛋白質のコンタクトマップ上にコンタクトクラスターを描いた。その結果,非二状態蛋白質と二状態蛋白質との間で,コンタクトクラスターの数(Nc)と分布に明確な違いを見出すことが出来た。本研究の手法を用いて,蛋白質の立体構造コンタクトマップ上に,非二状態蛋白質と二状態蛋白質の違いを描き,そのフォールディング速度を予測することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度導入した,ロジスティック関数に基づく非局所的コンタクトクラスターの解析を行い,コンタクトマップ上に非二状態蛋白質と二状態蛋白質を明確に識別し,それらのフォールディング速度を立体構造のみから予測することが可能となった。また,非二状態蛋白質と二状態蛋白質のフォールディング分子機構の違いを,本研究の手法を用いて明らかにすることができた。すなわち,非二状態蛋白質においては,そのコンタクトマップ上に通常5個以上の非局所的コンタクトクラスターが描かれるのに対し,二状態蛋白質においては,コンタクトマップ上の60%以上の領域が,一つの大きな非局所的コンタクトクラスターで覆われてしまうことが明らかとなった。非局所的コンタクトクラスターは,αヘリックスやβヘアピンなどの二次構造要素間の接触領域に対応していることが多いので,上記の結果は,非二状態蛋白質においては,二次構造要素間の再配置がフォールディング反応の律速段階となっているのに対し,二状態蛋白質においては,分子全体の協同的な構造形成が律速段階となっていることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の蛋白質フォールディング速度データベースを構築する過程で,既存のデータベースにおいては,その基礎となっているフォールディング速度データは,個々の研究者により,様々な実験条件下で得られたものであり,特に測定温度は,低いところは5℃,高いところでは75℃ のデーターがそのまま使われていることが明らかとなった。温度が20℃ 変化すると,速度は一桁変化するので,これは由々しい問題である。Eyringの関係式などを利用して,温度補正を取り入れた,より質の高いデーターベースの構築を行うことを予定している。
昨年度の研究結果から,蛋白質フォールディングの臨界構造に関係した,各残基の変異誘発によるΦ値は残基間のコンタクト強度とは相関しないことが明らかとなっている。これは,非局所的コンタクトクラスター数の対数(log Nc)とlog kfとの間の高い相関を示した,本研究の結果と一見矛盾している。今後,二状態蛋白質と非二状態蛋白質を,それぞれ対象として,様々な構造パラメータとΦ値との間の相関を調べ,フォールディング分子機構の究極的解明を目指す方針である。そのため,新たな研究課題「速度データと天然構造の相関解析による蛋白質フォールディングの遷移状態の研究」で科学研究費基盤研究(C)を平成28年度から実施することとなった。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に関連した研究打ち合わせと学会発表を行うため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究打ち合わせと学会発表のための旅費滞在費として使用する。
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