研究課題
基盤研究(C)
線虫C.エレガンスは成虫でも体長1ミリ前後と、これまでイメージングマススペクトロメトリー (IMS)で解析されてきた材料としては非常に小さく、これまで我々が行ったMALDI法によるイメージングでは発現組織の特定が困難であった。そこで新たにTOF-SIMS法によるイメージング導入を行い、ナノレベルの高解像度での生体分子の分布を明らかにする。本年度はTOF-SIMSでのイメージングに用いる線虫サンプルの条件を検討した。まず、これまで線虫表面の硬いクチクラ構造を除去し、線虫の内部構造を露出させるためMALDI法で用いられてきたフリーズクラック法がTOF-SIMS方に応用できるか検討を行った。フリーズクラック処理の有無でのイオン強度を比較し、同処理で個体内部の生体分子の露出がなされていることを確認した。フリーズクラック処理を施した線虫サンプルを研究協力者石崎逸子氏、眞田則明氏(アルバックファイ)の協力の下にTRIFT Vシステムを用いてTOF-SIMSイメージングを行った結果、非常に解像度のイメージング像が得られ、腸管に沿ってステアリン酸(SA)、エイコサペンタエン酸(EPA)などの脂肪酸が特徴的な分布を示していることがわかった。またネガティブコントロールとして用いたEPAなどω3脂肪酸を合成できないfat-1変異体ではEPAの発現が消失していることを確認し、本手法の信頼性を確認した。一方、観察する面の制御が困難なフリーズクラック法の欠点を克服するため、電子顕微鏡解析に用いられる凍結超薄切片を用いた解析を試みた。一時的な温度上昇等により未固定のままで凍結超薄切片を作製するのは困難であったが、研究協力者である浜松医科大超微細構造解析室の村中祥悟氏、太田勲氏により液体窒素内での線虫の取り扱いを容易にする固定危惧を自作するなどの結果、条件が確定した。
2: おおむね順調に進展している
ナノメーターレベルの高解像度を実現するTOF-SIMSを線虫に導入し、細胞ごとの生体分子の分布を解析することを目指し、サンプルの準備法の検討をおこなった。フリーズクラック法で高解像度イメージングに成功し、脂肪酸などの生体分子を高感度に検出することに成功した。一方で、急速凍結法による凍結切片法は予想より時間を要したが、研究協力者である超微細構造解析室の村中祥悟氏、太田勲氏の助力によって取り扱い機具を開発することで目的とする切片を取得することができた。
凍結超薄切片法で得られたサンプルをTRIFT Vシステムを用いてTOF-SIMSイメージングを行い、条件の最適化を行う。とフリーズクラック法によるサンプルの比較を行い、どちらがより高解像度イメージングに適した結果が得られるか決定する。昨年度に最適化した条件で凍結超薄切片法で得られたサンプルをTRIFT Vシステムを用いてTOF-SIMSイメージングを行い、脂質の細胞内局在を明らかにする.さらに野生型と脂質合成変異体の比較,温度などの環境条件の変化を検討することで脂質の細胞内局 在の生物学的役割を明らかにする。個々の脂質の分布パターンを炭素鎖の長さと二重結合の数まで区別して解析することは IMS で のみ可能な技術である。以下の順序で TOF-SIMS の高解像度イメージング解析を行う。a)前年度に確定した最適条件を利用して生体膜の脂質の分布図を細胞ごとに記載する。b)脂質の構成要素である脂肪酸合成の変異体(fat 遺伝子)での発現パターンの変化を解析し, LC-MS など他の方法で得られたデータと比較検討する.
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