RNAやタンパク質の核-細胞質間輸送は、真核生物における遺伝子発現に必須の過程である。核内で転写されたさまざまなRNAは、特有の輸送受容体により“積み荷”として認識され、核から細胞質へ輸送される。mRNAは、他のRNAに比べて構造的な多様性に富んだRNAであり、転写やプロセシングの過程で結合するアダプターと総称されるRNA結合タンパク質群が、輸送受容体Tap-p15ヘテロダイマーによる積み荷認識に重要な役割を果たす。一方、Tap-p15ヘテロダイマー自体もmRNA核外輸送に必須のRNA結合活性を有しているが、そのRNA認識の構造基盤については、十分に明らかにされていなかった。輸送受容体による積み荷認識の分子機構解明を目的とした本研究では、Tap-p15ヘテロダイマーとレトロウイルスのCTE RNAとの複合体の結晶構造解析を試みた。 Tap-p15のRNA結合ドメインの構造解析を行ない、TapのロイシンリッチリピートとNTF2様ドメイン間にあるリンカー配列を介したタンパク質間相互作用により、Tap-p15 2分子からなるヘテロ4量体が形成されることを見出した。また、RNA結合に関係するアミノ酸残基と核膜孔タンパク質との相互作用に関係するアミノ酸残基が、ヘテロ4量体中では互いに反対側の面に配置することが明らかとなった。さらに、リンカー配列に変異を導入し、ヘテロ4量体形成を阻害することで、CTE RNAに対する結合親和性や核外輸送能が顕著に低下した。一方で、リンカー変異は、CTE配列を含まないmRNAの核外輸送には影響しなかった。これらの結果から、Tap-p15は、CTE RNAの核外輸送に際してRNAや核膜孔タンパクとの相互作用に最適なヘテロ4量体を形成する一方で、内在性mRNAの核外輸送にはこのような高次構造形成が、必ずしも必要ではないことが推察された。
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