研究実績の概要 |
粘液細菌Myxococcus xanthusは100程度の真核生物様プロテインキナーゼを有する。セリン/スレオニンキナーゼ及びチロシンキナーゼは、12のサブドメインを有し、そのうちVIbドメインにあるcatalytic loopにRDxKxxN及びRDx(A/R)A(A/R)N配列をそれぞれ有しているが、本菌の真核生物様キナーゼの半分程度は、それらとは異なる配列を有している。我々は前年度に14個の典型的なcatalytic loopを有しないキナーゼを大腸菌で発現させ、酵素活性を測定したところ、2つ(DspA, DspB)を除いて低い活性しか示さなかったことから、典型的なcatalytic loopを有しないキナーゼの大半は低いキナーゼ活性しか有していないと推定した。活性の高かった2つのキナーゼは塩基性ミエリン(MBP)のセリン/スレオニン残基をリン酸化し、自己リン酸化においてチロシン残基のリン酸化を示すdual specificity kinaseであった。 高いキナーゼ活性を有するDspBは、catalytic loopにRDVAQKN配列を有し、これをセリン/スレオニンキナーゼ型に置換した変異酵素 (A165K)では、MBPに対するキナーゼ活性が1.3倍増加した。本酵素はRDキナーゼで activation loopにセリンとスレオニン残基をそれぞれ1つ有しており、それらのアミノ酸をアラニンに置換した変異酵素ではキナーゼ活性に変化は見られなかった。RDキナーゼはactivation loopのアミノ酸がリン酸化されることで酵素活性が活性化されるが、本酵素はそのような機構を有しないと考えられた。 一方、本酵素はチロシン残基を自己リン酸化するため、5つのチロシン残基(Y25, Y102, Y145, Y173, Y205)をフェニルアラニンに置換した変異酵素を作製したところ、Y145F変異酵素はキナーゼ活性を大幅に減少させたことから、Y145の自己リン酸化が本酵素の活性化に必要であることが明らかになり、本菌が有するチロシンホスファターゼによって活性調節を受けている可能性が示唆された。
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