古典的Wntシグナルを発生のごく初期から阻害すると、胚全体が神経外胚葉になってしまうという研究代表者の過去の論文と、他の研究室から発表された最近の論文の結果から、シグナルXは連続した複数のWntシグナルであることが示唆された。そこで、実際にシグナルXの一員となりうるWntのリガンドを探るため、初期胞胚期以降に発現するWntを検出した。その結果Wnt3、Wnt6、Wnt7の3つのWntが候補として同定された。それらの発現パターンの解析から、3つのWntのうち、Wnt6とWnt7が強い候補として示唆され、その後の機能解析の対象とした。Wnt6とWnt7をそれぞれ翻訳阻害した条件下で、神経外胚葉のSpecificationに必須であるfoxQ2の発現パターンを調べた。その結果、Wnt6阻害胚では、foxQ2の発現場所やタイミングに変化がなかったが、Wnt7阻害胚ではfoxQ2が神経外胚葉のSpecification後、徐々に消失していくタイミングにおいても強い発現レベルで維持されていることが明らかになった。さらに、foxQ2の発現領域も正常胚のそれと比較して有意に広いことから、Wnt7はシグナルXの一端を担うリガンドであることが示唆された。次に古典的Wntシグナルのco-receptorのlow density lipoprotein receptor-related protein 6 (LRP6)の機能を調べた。LRP6は母性的にタンパク質とmRNAをもっているため、ウニ胚を用いた研究では母性的なタンパク質の機能を抑制できないが、mRNAの翻訳阻害によって発生途中からの古典的Wntシグナルを阻害できる。LRP6の機能阻害の結果、Wnt7の機能阻害と同様に、失われるべきタイミングにおいてfoxQ2の遺伝子発現が維持された
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