研究課題
基盤研究(C)
初期発生の開始に際して、卵内に保存されている母性mRNA3’末端の短いポリA鎖は伸長し、翻訳が開始される。多くの動物において、未成熟卵でポリAが伸びないのは、脱アデニル化酵素がポリA鎖を削っているからだと考えられていた。しかし、脱アデニル化酵素がどのように削りすぎないように制御されているのか、未だ不明である。申請者らは、ヒトデ卵母細胞サイクリンBまたはAの不活性なmRNA の短いポリA 鎖には、数塩基のポリUが結合していることを見出した。このポリU は減数分裂再開時に切り取られ、速やかにポリA鎖が伸長して、サイクリンB の翻訳が開始される。本研究では、このポリU構造が、安定的な母性RNA 貯蔵に役立つと予測し、仮説「mRNA3’末端のポリU は、脱アデニル化酵素による過剰なmRNA 分解を防止している」の真偽を明らかにすることを目的とした。サイクリンB のmRNA 3’ノンコーディング領域(末端A型、末端U型)に蛍光ラベルされたものを化学的に合成し、それらをGV 卵にマイクロインジェクションしたところ、両者ともGV卵においても、大変不安定であった。その原因として3’構造が短すぎる、または5’キャップ構造がないためであると考えられ、本手法では仮説の真偽を明らかに出来ないことが判明した。そこで、鋳型DNAからin vitro転写を行いRNA合成した。合成したRNAについて、3‘末端の構造を、アダプターライゲーション法によるcDNA合成を経たシークエンスで確認したところ、T7RNAポリメラーゼが末端にランダムにヌクレオチドを付加する反応を持つために、期待通りのRNAが合成できないことが判明した。そこで、さまざまな検討を行い(後述)、期待通りの構造を持つRNA合成に成功した。現在、これを卵内にマイクロインジェクションして、仮説の真偽について検討中である。
2: おおむね順調に進展している
計画通り化学合成法によるサイクリンmRNAの卵内における安定性については検討した。さらにT7RNAポリメラーゼによるin vitro転写法でサイクリンmRNA合成を行い、3’末端にランダムにヌクレオチドを付加する反応について、このランダム性を防止する手法を開発した。具体的には、NTPの量比を検討し、短いポリA鎖を持つものに関しては、期待通りの末端構造を持つものを合成できた。これまで、人工合成RNAを用いた多くの研究が行われてきたが、合成したRNAの末端構造を検証してそれぞれの研究に用いられたものはほとんどない。したがって、これまでの多くの研究では、期待通りのRNAで実験を行っていなかった可能性があり、再検討が必要であると考えられる。RNA合成法の開発のために、予想外に時間を使ってしまったが、本手法は広く活用できる価値が高いものであり、本研究目的を実現できる状況に現在到達している。
すでに末端構造が短いAで終わっているRNA合成を完了し、それに短いU付加したRNA合成も完了した。これらは末端構造をシークエンスして、正に期待通りの構造を持つことも確認済みである。実験動物のシーズンのために、卵内にマイクロインジェクションして、その構造変化を確認する実験は5月まで実施できなかったが、現在、開始しており、速やかに結果を得て仮説の真偽を判定する。さらに計画通り、末端Uを切り離す酵素を同定する実験進む予定である。
ほぼ、計画通りに使用しており、残額はわずか1228円である。1228円は、次年度使用の物品費に組み込み、活用する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Curr Biol
巻: 23 ページ: 775-781
10.1016/j.cub.2013.03.040
Zool Sci
巻: 30 ページ: 975-984
10.2108/zsj.30.975