研究課題
基盤研究(C)
小脳は、円滑な運動や運動学習を制御している。本研究では、ゼブラフィッシュをモデル動物として脊椎動物の小脳神経回路の形成機構とその機能の解明を目的とした。回路形成機構の解明として、小脳神経変異体の解析と小脳神経のコネクションを調べた。小脳神経系の機能解析として恐怖条件付け学習のシステムの構築を目指した。本年度は、以下のことを明らかとした.1) 小脳神経形成に異常のある変異体の解析: gazami変異体では、成熟した顆粒細胞が減少していたが、細胞増殖は亢進していた。gazamiの原因遺伝子であるcfdp1は、細胞の増殖と分化のバランスを制御していることが示唆された。IV型コラーゲンの変異によって小脳顆粒細胞の軸索走行が乱れる。IV型コラーゲンの変異により、基底膜構造が乱れることによって軸索の走行が異常になることが明らかになった。2) 小脳神経のコネクション: 小脳顆粒細胞に特異的に転写活性化因子Gal4FFを発現するトランスジェニックゼブラフィッシュにおいて小麦麦芽凝集素(WGA)を顆粒細胞に発現させることによって小脳における神経回路網を解析した。WGAの輸送を解析したところ、顆粒細胞>平行線維>プルキンエ細胞>eurydendroid細胞(投射神経)あるいは、顆粒細胞>平行線維>プルキンエ細胞<登上線維<下オリーブ核といった小脳の神経回路網をトレースすることが出来た。3) 小脳に依存する学習能力を測定する方法の樹立: 恐怖条件付け学習、条件刺激としてLEDライトの消灯、無条件刺激として体表への電気ショックを行い、条件反応として徐脈を測定する系を確立した。生後、約20日目のゼブラフィッシュにおいて学習効果が観察された。今後、神経機能を改変したゼブラフィッシュを用いて、学習における小脳の役割を解析する予定である。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に記載した事柄のうち、以下のように研究に伸展が見られた。顆粒細胞の形成、軸索走行に異常のある変異体の原因遺伝子の機能解析を行い、興味深い結果が得られた。また、ゼブラフィッシュ小脳変異体プルキンエ細胞、顆粒細胞、eurydendroid細胞にWGAを発現させて神経のコネクションを調べた。さらに、恐怖条件付け学習を行うシステムを樹立した。実験計画にあるトランスジェニックフィッシュの作製のうち、神経活動を光照射によって抑制する魚の作製を行っている(それ以外は取得済み)。また、各種の小脳神経細胞に目的の遺伝子を発現させるレポーターラインの同定と性格付けを行った(論文投稿準備中)。
本年度の実験を継続して行う。Cfdp1と結合する因子の機能解析を行う。また、Cfdp1はクロマチン上へのサブタイプ特異的ヒストンH2A(H2A.Z)の集積に関与していることが報告されている。そこで、顆粒細胞の分化や前駆細胞の増殖に必要な遺伝子におけるヒストンH2Aの動態を調べる。IV型コラーゲンa6による平行線維の走行制御の分子機構を調べるために、軸索ガイダンス因子と基底膜の関連を調べる。様々な軸索ガイダンス因子の変異体を作製して解析する。基底膜成分によるガイダンス因子の局在や活性の制御について調べる。今回、樹立したゼブラフィッシュ幼魚における恐怖条件付け学習のシステムを用いて、小脳神経の活性を改変した魚で解析を行う。
当初の実験計画より、消耗品の購入額が少額であったため。特に小脳変異体解析に使用したDNA関連試薬の購入額が本年度の予定を下回り、次年度に使用する予定である。消耗品の購入に使用する計画である。具体的には、小脳変異体の原因遺伝子の機能解析に使用するDNA、RNA関連の試薬の購入に使用する。
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