研究課題
本研究では、ゼブラフィッシュをモデル動物として小脳神経回路形成の分子機構とその機能の解明を目的とした。本年度は、以下のことを明らかとした.1) 小脳神経形成に異常のある変異体の解析:gazami変異体では、成熟した顆粒細胞が減少しているが、前駆細胞の細胞増殖は亢進していた。gazamiの原因遺伝子であるcfdp1は、細胞増殖に関わる遺伝子c-Mycと結合した。Cfdp1は、細胞の増殖と分化のバランスをMycの活性を制御することによって調節していることが示唆された。IV型コラーゲンの変異によって小脳顆粒細胞の軸索走行が乱れる。IV型コラーゲンの変異により、基底膜構造が乱れることによって軸索の走行が異常になることが明らかになった(投稿中)。2) 小脳神経のコネクション:小脳神経回路形成に関わる神経細胞特異的に転写活性化因子Gal4FFを発現するトランスジェニックゼブラフィッシュを複数種類同定して性格付けを行った。顆粒細胞に小麦麦芽凝集素(WGA)を顆粒細胞に発現させることによって小脳における神経回路網を解析した。WGAの輸送を解析したところ、顆粒細胞>平行線維>プルキンエ細胞>eurydendroid細胞(投射神経)あるいは、顆粒細胞>平行線維>プルキンエ細胞<登上線維<下オリーブ核といった小脳の神経回路網を観察することが出来た(Dev. Biol.(2014) 397, 1-17.)。3) 小脳に依存する学習能力を測定する方法の樹立:恐怖条件付け学習、条件刺激としてLEDライトの消灯、無条件刺激として体表への電気ショックを行い、条件反応として徐脈を測定する系を確立した。生後、約20日目のゼブラフィッシュにおいて学習効果が観察された。一部の小脳体顆粒細胞の機能をボツリヌス毒素で阻害した魚で恐怖学習を調べた。今後、さらに異なった小脳神経細胞の機能を改変したゼブラフィッシュを用いて、学習における小脳の役割を解析する予定である。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に記載した事柄のうち、以下のように研究に伸展が見られた。各種の小脳神経細胞に目的の遺伝子を発現させるレポーターラインの同定と性格付けを行った。また、ゼブラフィッシュ小脳顆粒細胞にWGAを発現させて神経のコネクションを調べることが出来た。(Dev. Biol. (2014) 397, 1-17.)。顆粒細胞の形成、軸索走行に異常のある変異体の原因遺伝子の機能解析を行い、興味深い結果が得られた。核タンパク質であるCfdp1が顆粒細胞前駆細胞の分化と増殖に関与していることが明らかとなった。さらにCfdp1はガン遺伝子c-Mycと結合して細胞増殖を負に制御している可能性が示唆された。IV型コラーゲンの変異により、基底膜構造が乱れることによって軸索の走行が異常になることが明らかになった(投稿中)。さらに、ゼブラフィッシュを使った恐怖条件付け学習の解析を行うシステムを樹立した。
本年度の実験を継続して行う。Cfdp1による細胞増殖の制御機構の解析を行う。Cfdp1がどのようにMycの活性を制御しているかを調べる。また、Cfdp1は、クロマチン上へのサブタイプ特異的ヒストンH2A(H2A.Z)の集積に関与していることが報告されている。そこで、顆粒細胞の分化や前駆細胞の増殖に必要な遺伝子におけるヒストンH2Aの動態を調べる。今回、樹立したゼブラフィッシュ幼魚における恐怖条件付け学習のシステムを用いて、小脳神経の活性を改変した魚で学習効率の解析を行う。
当初の実験計画より、消耗品の購入額が少額であったため。小脳神経機能を改変されたトランスジェニックフィッシュの作成に遅延が生じたため、消耗品の購入が予定より少額であった。
消耗品の購入に使用する予定である。具体的には、小脳機能改変フィッシュの作成と機能解析に使用するDNA、RNAあるいは蛋白質関連の試薬の購入に使用する。
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Developmental Biology
巻: 397 ページ: 1-17
10.1016/j.ydbio.2014.09.030. Epub 2014 Oct 7.
http://bbc.agr.nagoya-u.ac.jp/~junkei/index.html