研究課題
本研究では、ゼブラフィッシュをモデル動物として小脳神経回路形成の分子機構とその機能の解明を目的とした。1)小脳ニューロン形成に異常のある変異体の解析IV型コラーゲンa6変異体の解析を行った。IV型コラーゲンの機能喪失による神経管の直上における基底膜構造が乱れていた。この基底膜構造の乱れによって顆粒細胞の後脳への軸索走行に影響を及ぼすことを明らかとした(PLoS genet. 11, e1005587 (2015))。この結果は、これまでに報告されているIV型コラーゲンによる軸索走行制御とは異なっていた。成熟した顆粒細胞が減少している変異体gazamiの原因遺伝子cfdp1を同定した。Cfdp1は、酵母においてクロマチンにヒストンバリアントであるH2A.Zを取り込む酵素複合体のコンポーネントの脊椎動物ホモログである。この変異体では、受精後4から5日目の胚でM期の細胞の蓄積が観察された。しかしながら、同時期の胚においてS期にある細胞数に顕著な変化は見られなかった。以上のことから、Cfdp1は顆粒細胞形成において細胞分裂に重要な役割をしていることが示唆された。2)小脳に依存する学習古典的恐怖学習付け学習:生後18日前後のゼブラフィッシュを用いて条件刺激としてLEDライトの消灯、無条件刺激として電気ショックを行い、条件反応として心拍数の変化を測定する恐怖条件付け学習の実験系を樹立した。小脳顆粒細胞の一部をボツリヌス毒素で阻害したところ、学習が行われないと予想していたが、学習頻度には影響はなかった。しかし、阻害魚では条件反応である徐脈が延長した。また、条件反応の獲得に従って反応する小脳内の神経をGCaMPを用いたカルシウムイメージングで同定した。
2: おおむね順調に進展している
研究計画書に記載した事柄のうち、以下のように研究の進展が見られた。小脳顆粒細胞軸索に走行異常ん観察される変異体shiomanekiの解析を行った。shiomaneki変異体の原因遺伝子は、基底膜の構成成分であるIV型コラーゲンa6であり、変異体では神経管の直上の基底膜構造に乱れが生じていた。この基底膜構造の乱れが、軸索走行の原因であることを明らかとした(PLoS genet. 11, e1005587 (2015))。小脳顆粒細胞の生成に必要な遺伝子cfdp1を同定した。この変異体であるgazamiでは、M期細胞の蓄積が見られ、顆粒細胞が著しく減少していた。これらのことから、cfdp1は、顆粒細胞の細胞分裂と分化に関与している可能性が示唆された。ゼブラフィッシュ幼魚を用いた古典的恐怖条件付け学習の実験系を確立し、小脳顆粒細胞の一部を阻害した実験を行った。古典的恐怖条件付け学習には、小脳神経回路が必要であることが知られているが、学習頻度には影響はなかった。しかし、条件反応である徐脈からの回復過程が遅延していた。また、学習過程で活動が上昇する小脳領域にあるニューロンを発見した。
本年度の実験を継続して行う。すべての小脳顆粒細胞の活性を阻害したゼブラフィッシュや小脳プルキンエ細胞を阻害した魚での恐怖条件付け学習の実験を行う。学習過程で活動が上昇するニューロンがどのような細胞であるかを解析する。gazami変異体における細胞周期の停止機構を調べる。M期細胞の紡錘体形成異常や細胞周期関連遺伝子の発現を調べる。
当初の実験計画に基づいて行った小脳顆粒細胞の活性を阻害した古典的恐怖条件付け学習の解析において、予想外の結果が得られたため。また、学習過程において活動する興味深い小脳ニューロンが観察されたため、追加の実験を行う必要が生じた。
古典的恐怖条件付け学習の実験に必要な消耗品の購入に使用する。また、小脳変異体解析に必要な核酸及びタンパク質関連の試薬を購入する予定である。さらに得られた結果を論文発表するための費用に充てる。
http://bbc.agr.nagoya-u.ac.jp/~junkei/en/index.html
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PLoS genet.
巻: 11 ページ: e1005587
doi: 10.1371/journal.pgen.1005587. eCollection 2015.
http://www.bio.nagoya-u.ac.jp/paper/2016-26/08.html