研究課題/領域番号 |
25440106
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内川 昌則 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (80346147)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 感覚器原基 / 転写制御因子 / Sox / Sall4 / Snail/ZFH / エンハンサー / 転写抑制 / 特異化 |
研究概要 |
本研究は、転写制御因子群SOXとそのパートナー因子による感覚器の特異化の仕組みの解明を目的に行っている。嗅上皮・内耳プラコードで活性を示すNOP1エンハンサーは、転写制御因子群SOXとそのパートナー因子であるSall4によって活性化される。しかし、その特異性には抑制エレメントが重要な役割を果たし、抑制エレメントを欠失させたNOP1エンハンサーはSOXとSall4が発現される広い胚領域で活性を示す。 本年度は、その抑制エレメントに作用して、NOP1エンハンサーの活性を抑制する転写制御因子について検討した。NOP1エンハンサーの抑制エレメントの中で、Snail/ZFH zinc finger proteinの予想結合配列と一致する配列に着目して解析した。その結果、Zfh1/2およびSnail1/2は、NOP1エンハンサーの活性を抑制できることを明らかにした。このことは、胚におけるSOXとSall4が共に発現される領域である中枢神経系や神経冠細胞では、ZfhおよびSnailが発現されており、NOP1エンハンサーの活性がSnail/Zfhによって抑制されていることが示唆された。これは抑制エレメントを欠失したNOP1エンハンサーが、中枢神経系や神経冠細胞で強い活性を示すことと一致する。NOP1エンハンサー解析から示唆されるこのような機構が、嗅上皮・内耳における共通の特異化の機構の一端を担っていると考えられる。 今後は、Snail/Zfh zinc finger proteinsの頭部外胚葉での機能を調べ、嗅上皮・内耳プラコード特異性にどのように作用するか検討していきたいと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究によって、感覚器プラコード、特に嗅上皮・内耳プラコードの特異化に抑制的に働く転写抑制因子を同定することができた。感覚器プラコード形成過程では、水晶体ではない状態を獲得する過程が含まれることが示唆されているが、NOP1エンハンサーの活性はまさにこの過程を反映すると考えられる。そのNOP1エンハンサーの活性化には、転写制御因子群SOXとSall4による協調的な作用が必須であるが、その嗅上皮・内耳プラコード特異性には転写抑制因子群が重要な役割を果たすことが示唆されていた。これまでにbHLHをDNA結合ドメインに持つNgn2/Neurod1などが、NOP1エンハンサーを抑制することが示されていたが、それらは内耳発生過程でより後期に内耳の有毛細胞分化に重要な役割を果たすことが明らかになっていた。今回同定したSnail/Zfh zinc finger proteinsは、NOP1エンハンサーの脱抑制によって活性が観察される中枢神経系や神経冠細胞で強く発現され、また頭部外胚葉でもZfh1が弱く発現されることから、嗅上皮・内耳プラコード特異化の過程で抑制的に働くと考えられる。このことは、Snail/Zfh zinc finger proteinsの感覚器プラコード特異化における役割を明らかにすれば、嗅上皮・内耳プラコードの特異化の機構の一端を捉えることができると期待され、今後の研究を進める上で大きな発見である。
|
今後の研究の推進方策 |
研究は順調に推移しているので、計画通りに進める。特に今回同定した転写抑制因子群が、感覚器プラコードの特異化に重要な転写制御因子群(水晶体プラコードではSOXとPax6、嗅上皮・内耳プラコードではSOXとSall4)とどのように関連して感覚器プラコードが特異化されるかを明らかにする。 SOX2+Pax6 あるいはSOX2/9+Sall4 を頭部外胚葉に作用させて、(領域として)どの範囲まで感覚器プラコードを特異化できるのかを明らかにする。SOX2+Pax6 あるいはSOX2/9+Sall4 の作用により、水晶体あるいは嗅上皮・内耳原基を発生させることができる条件を探索する。前年度で解析した転写抑制因子を念頭に、その脱抑制と転写制御因子群(SOX2+Pax6, SOX2/9+Sall4)を同時に作用することで感覚器プラコードの発生がどのように進行するか調べる。 さらに必要な転写制御因子やそれを活性化するシグナル因子についても解析を進める。感覚器プラコード形成に関わる因子群は、少なくとも2つの発生過程に関わる因子群として分けて考えることができる。一つは外胚葉(胚盤葉上層)から、感覚器プラコードを形成できる頭部外胚葉の特異化に関わる因子群である。これらの一部は、Sox2遺伝子のN4 エンハンサーの頭部外胚葉における活性化機構を明らかにすることで同定する。もう一つの因子群は、各感覚器プラコード特異化に関わる因子群である。SOX2+Pax6 あるいはSOX2/9+Sall4 と協調的に感覚器プラコード形成を推進できる因子群を探索する。 これらの解析によって、感覚器の特異化の仕組みを明らかにする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していたマウス管理のための実験補助の経費が必要なかったため。また成果発表のための旅費についても、国内の参加した学会が近くだったので、宿泊費が必要なかったため少額で済んだため。 先の推進方策に沿って使用する。今年度は、遺伝子発現解析のためのGeneChipプローブアレイとその解析試薬の消耗品費が高額となる。また転写制御因子の阻害実験も行うので、その際、より効率的に阻害できるMorpholino antisense oligoも使用する。 成果発表のための学会の参加については、日本発生生物学会と日本分子生物学会の年会に参加を予定している。国際学会としては、4th International SOX Research Conferenceへの参加も計画している。
|