研究課題
基盤研究(C)
本研究では祖先的な脊椎動物である円口類ヤツメウナギを材料に、初期発生において始原生殖細胞(PGC)が確立される分子機構の解明を目指している。平成25年度はまず、繁殖期(5月~7月)に得られるヤツメウナギ胚を用いて、外来遺伝子(DNA)導入手法の開発を試みた。Pax3遺伝子の上流転写調節領域に蛍光タンパク質Venusを連結したDNAと、転移酵素のmRNAを混合した溶液を、ヤツメウナギ受精卵に顕微注入したところ、後脳、神経管、および筋肉に特異的な蛍光が観察された。また、前脳や心臓に特異的ないくつかの遺伝子の上流転写調節領域を用いても、同様に組織特異的な発現が胚発生過程を通じて観察できた。この手法は今後、遺伝学的解析の困難なヤツメウナギにおいて、初期発生における遺伝子発現発現制御の解析を行う際に有効であると期待される。次にヤツメウナギのアンモシーテス幼生を用いて、PGCと生殖巣の形態的な観察を行った。横断組織切片を作成して観察したところ、生殖腺と、そこに含まれる生殖細胞を見いだした。しかし一般的な染色方法では、後期胚においては明瞭な生殖腺やPGCを見いだすことはできず、初期マーカーを用いた生殖細胞の可視化を行う必要がある。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度はヤツメウナギの生殖細胞の形態的な把握、またゲノム情報を用いた解析で大きな進捗があった。また、実験補助員との共同作業により、希少な材料であるヤツメウナギ受精卵を用いた実験を効率的に進めることができた。
平成26年度にはこれまでに単離した生殖細胞関連遺伝子の発現パターンをより詳細に解析する。方法としては、ヤツメウナギ胚や幼生について組織切片を作製し、in situハイブリダイゼーションを行う。また受精卵への顕微注入によるレポーター遺伝子導入法を、mRNAの導入にも応用し、初期胚で局在する母性RNAのトレースも試みる。得られた結果を他の動物系統と比較し、生殖細胞形成機構の進化について考察する。
平成25年度には研究課題に使用している日本産ヤツメウナギのゲノムシークエンスが公開され、コンピュータ上におけるデータベースの解析により遺伝子の配列を詳細に解析することができた。このため必要な実験試薬を大幅に節約することができた。ヤツメウナギ胚を用いた実験に関しても、当初予定していた回数の受精が行われなかったため、試薬の購入回数が少なかった。また研究補助員の人件費については他の経費も充当できたため、支出が抑えられた。平成26年度には遺伝子のより詳細な探索を、RT-PCR法などを用いて行う予定であるため、そのための試薬キットを購入する。またアンチセンスモルフォリノオリゴなどの比較的高額なカスタム合成試薬、特定の細胞種を染色するための試薬を購入する必要がある。また研究成果発表・研究打ち合わせのための出張を行う予定である。
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