本研究ではヤツメウナギを材料に、初期発生における未分化な前駆細胞の起源と挙動が、脊椎動物の進化過程でたどった道筋を明らかにすることを目的とする。円口類ヤツメウナギは、顎や対鰭などをもたず、祖先的な形質を保持した脊椎動物である。これまでに生殖細胞、骨格筋前駆細胞、神経堤細胞などに発現する遺伝子を単離し、発現パターンを解析してきた。平成28年度は北海道カワヤツメLethenteron japonicumの受精卵を用いて、Sox9相同遺伝子など生殖巣前駆細胞や神経堤細胞の発生に関わる遺伝子の発現パターンを詳細に観察した。また、変態期の幼生について組織切片標本を作成し、生殖巣などの形態の変遷を観察した。技術面では、CRISPR/Cas9実験系を用いた遺伝子ノックアウト胚の作成を試みた。ヤツメウナギは世代期間が5年以上と長く、複雑な生活環を持つため、遺伝子変異系統の樹立は実際上不可能である。そこで、ガイドRNAによる遺伝子破壊を起こしたF0胚での表現型解析が不可欠となる。ヤツメウナギ受精卵にガイドRNAとCas9酵素を顕微注入して培養し、発生後期において、ゲノムDNA抽出と組織学的解析を行った。破壊した遺伝子の近傍にプライマーを設計してPCRで増幅し、遺伝子断片の次世代シークエンス解析を行ったところ、非常に高い確率で特異的な欠失が見られた。これより、希少性が高く、人工的な環境での飼育維持が困難な動物種で、遺伝子機能の解析を行う足がかりが得られた。
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