研究課題/領域番号 |
25440111
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
村上 柳太郎 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40182109)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 中腸 / HOX / 内臓筋 / EGFシグナル |
研究実績の概要 |
これまでの実験結果より、ショウジョウバエ胚の中腸第1チェンバーと第2チェンバーの境界部周辺の内臓筋で発現するHOX遺伝子のひとつである Antp が、第1チェンバーと第2チェンバーの大きさの制御に関わっていることがわかり、さらに、その影響がAntp の発現領域よりはるかに広範にわたることから、Antp は何らかの分泌性シグナルを介して中腸上皮に作用していると予想され、既知シグナル系のスクリーニングの結果、EGFシグナル経路の関与が明らかとなった。26年度は前年度に引き続き、EGF経路をはじめとする、中腸第1/第2チェンバーの大きさの制御に関わる要因を調べた。Antp 突然変異胚では、Antp領域の後方に隣接する内臓筋で発現するdpp の発現が極端に弱くなった。EGF受容体(EGFR)の突然変異胚でもAntp突然変異胚と同様なdpp発現の減弱が生じており、逆に、活性型EGFRの強制発現はAntp強制発現と同様にdpp 発現領域の顕著な拡大が生じた。さらに、EGFリガンドに拮抗するArgosが内臓筋で広く発現しており、その突然変異胚では、中腸のdpp発現領域が拡大した。つまり、Antpの作用と、EGFシグナル経路は、いずれもAntp発現領域の後方に隣接する領域の内臓筋におけるdpp発現を上昇させ、それによって第2チェンバーが拡大すると考えられる。第2チェンバーの部域特異的分化は、HOX遺伝子のUbxによって内臓筋において発現誘導されるDppが、直下の内胚葉性上皮に作用することによって引き起こされることが知られている。Antp は、EGFシグナル経路を介してDppの作用する範囲、言い換えると第1/第2チェンバーの境界の位置を決定し、それによって中腸前半部のプロポーションを制御している。Antp が直接支配しているEGFリガンドはまだ不明なので、27年度もリガンドの同定を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度と今年度行った研究によって、EGFシグナル経路が中腸第1/第2チェンバーのサイズ制御に関与する証拠が、EGF受容体、EGF拮抗因子(Argos)、EGF経路の細胞内シグナル伝達因子Ras という多段階の要因に関して得ることができ、残るは、Antp が直接発現を制御していると予想されるEGF系の分泌性リガンドあるいは、モディファイアーの同定であり、それによってHOX遺伝子Antpが分泌性シグナル因子を介して中腸第1/第2チェンバーのサイズ制御を行う、とする研究代表者の仮説の証明が完結するのであるが、既知のEGFリガンドを網羅的に調べているにも関わらず、まだ同定には至っていない。これは予想外であり、EGFリガンドだけでなく、EGF系に間接的に作用する因子である可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られた全ての結果は、Antp が何らかの細胞外因子を介して内胚葉性上皮に作用し、Dppによる誘導範囲を制御していることを強く支持している。一番単純なシナリオは、内臓筋のAntpがEGFリガンドの産生を引き起こし、それが上皮に作用する、というものだが、AntpもEGF経路の要素も、いずれも隣接領域の内臓筋におけるdpp発現に影響を与えていることから、今年度は内胚葉性上皮に作用しているであろうEGFリガンドの候補を網羅的に調べるだけではなく、隣接領域の内臓筋に作用する因子まで探索を広げたい。研究アプローチとしては、従来の計画に加えて、内胚葉が存在しない突然変異胚を用いて、内臓筋の部域間の相互作用について調べ始めている。予備的な実験をすでに開始しており、副次的なものではあるが、内胚葉が内臓中胚葉の部域特異的遺伝子発現に強い影響を与えている予想外の結果も得つつあり、今年度は内胚葉が内臓筋の発生に及ぼす影響についても研究範囲を広げ、中腸内臓筋と内胚葉性上皮の相互作用、という観点から内臓筋HOX遺伝子の意義を明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初実験計画で購入を予定していた電動インジェクターが、手動の物で当面の研究が遂行できることから、購入を見合わせたことと、実験計画で想定していたAntpの標的となっているEGFリガンドの同定が遅れており、学会での報告を見合わせたことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度への繰越金は、系統作成実験を効率的に行うため、電動インジェクターの購入に当てる予定であったが、金額的に不足することと、現在の研究の進行状況を勘案し、タンパク質の局在を調べるための抗体作成等の試薬購入に主として使用する。また27年度が研究計画の最終年度にあたることから、これまでの研究成果を国際学会等で積極的に発表するので、その経費としても使う可能性がある。
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