研究実績の概要 |
ショウジョウバエ中腸は内胚葉性上皮と,それを裏打ちする内臓中胚葉から構成され,上皮は部域特有の細胞分化を遂げる.内臓中胚葉ではHOX遺伝子 Scr, Antp, Ubx, abd-A が体節部と類似したパターンで発現しており、Ubxについては、分泌性シグナル因子Dppを介して直下の内胚葉の部域特異的細胞分化を誘導することが報告されているが、他のHOX遺伝子については知見が殆どない。中腸は胚発生中期に4つのチェンバーに区切られ、我々は数年前から各チェンバーの上皮分化マーカー遺伝子を網羅的に探索・同定しており、それを分化の指標として用いることで、中腸内臓筋で発現するHOX遺伝子の役割を解析したきた。その過程で、HOX遺伝子の主な役割が中腸上皮の分化誘導だけでなく、部域ごとのサイズなど、形態制御にも関わることを示唆する結果が得られた。本研究の主な目的は、HOX遺伝子の活性を上皮に伝えるシグナルの同定と、その作用メカニズムの解明である。発生過程で働く、既知の分泌性シグナル因子の中から、中腸における発現と突然変異胚の表現型、および強制発現の表現型を指標として網羅的な探索を行った結果、AntpとUbxは、上皮に対してDppシグナル経路およびEGFRシグナル経路を介して、第1と第2チェンバーの大きさと分化を制御していることが明らかとなった。UbxはDppを介して第2チェンバー上皮の部域特異的分化を誘導する作用があるが、第1チェンバーの上皮の分化は意外にもどのHOXにも依存していない。Antpは、EGFRシグナル経路を介してDppの作用する範囲を制御していると考えられる。その結果、DppとEGFR経路のさまざまな遺伝子操作では、第1と第2チェンバーの大きさは常に相補的に変化する。Antpが直接制御しているEGFR経路のコンポーネントは、確定に至らなかった。
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