mRNAの5′非翻訳領域にuORF (上流ORF)と呼ばれる小さなORFが存在し、そこにコードされる新生ペプチド鎖(uORFペプチド)が自身を翻訳したリボソームに作用して翻訳を制御する例が知られているが、そのような翻訳制御はごく一部の遺伝子にのみ見られる例外的な遺伝子発現制御であると考えられてきた。 本研究は、uORFにコードされるペプチドによる翻訳制御の植物における未知の役割を明らかにするために、アミノ酸配列依存的にタンパク質発現を抑制するuORFの生理学的役割の解析を行った。その結果、維管束形成を制御する転写因子をコードする遺伝子において、維管束木部細胞分化の抑制因子であるサーモスペルミン(ポリアミンの一種)に応答してuORFの翻訳が促進され、それによってmRNA分解が誘導されることを見いだした。また、Fボックスタンパク質をコードするある遺伝子では、細胞増殖が盛んな細胞で特異的にuORFペプチドによる翻訳抑制が強いことを見いだした。 さらに、ストレス応答に関与する2つの遺伝子とFボックスタンパク質をコードする1つの遺伝子において、複数のuORFが主要ORFの翻訳制御に関与することを見いだした。そのうちの2つの遺伝子では、uORFペプチドによる翻訳抑制に加えてリイニシエーション機構が翻訳制御に関与することを示した。また、Fボックスタンパク質遺伝子では、2つのuORFのアミノ酸配列が主要ORFの翻訳制御に関与し、下流側のuORFは翻訳を抑制し、上流側のuORFは翻訳抑制を緩和する働きがあることを見いだした。 以上のように、本研究により、uORFペプチドは様々な機構によって多様な遺伝子発現制御に関与することが明らかになった。
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