本研究では植物の細胞壁多糖の細胞間輸送の制御機構の解明を目指している。これまでの研究を通して、イネの維管束組織において、フコシル化キシログルカンが伴細胞で合成された後に師管細胞へと輸送され、キシログルカン転移酵素/加水分解酵素(XTH)によって師管の細胞壁に組込まれることを解明していた。 1. 昨年度の研究成果によって、伴細胞で合成されたキシログルカンは師管細胞壁と特定の細胞間領域だけに存在することが示されていたが、さらに詳細なキシログルカンの動態観察の結果は、伴細胞から師管細胞壁へのキシログルカンの輸送は、恒常的に起こっているわけはなく、発生段階に依存的に制御され、また外的な刺激要因などによっても引き起されていることが示唆された。この結果は、輸送制御因子を単離するためは、キシログルカンが輸送される発生段階を限定し、そのタイミングで輸送経路の細胞間領域および周辺細胞を回収することが有効であることを示した。 本解析は、輸送制御因子の単離の難しさを示す結果となったが、解析過程で改良を進めた植物組織内における細胞壁多糖の複数の観察技術は、本年度の研究成果として、2本の論文として発表することができた。 2. 1で明らかになった輸送経路の細胞間領域および周辺細胞の数細胞の領域だけを回収できるマイクロダイセクションを利用したサンプリング方法の開発を進めた。本技術を用いて迅速かつ多量に回収したサンプルからRNA抽出やRNAシークエンスが可能であり、かつ各発生段階の遺伝子発現量のプロファイルを高精度で開発できることが確認できた。
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