種子は成熟過程で、貯蔵物質の蓄積、乾燥耐性、成長停止・休眠といった特徴が胚に付加され種子発生が完結する。このような種子成熟プログラムに関わるFUS3およびABI3などのマスター転写因子や植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)の関与が知られているものの、その下流で種々の形質獲得に関わる最終調節因子の実態はよく分かっていない。本研究課題では、非典型Aux/IAAタンパク質の種子成熟過程の作用のうち、特に種子休眠の獲得制御に焦点を当てて解析した。実施期間を通じ、IAA30がFUS3の制御下で種子成熟過程での胚成長停止応答を介して種子成熟過程後期での休眠獲得を制御すること、IAA30の種子成熟過程での発現は、FUS3によるABAとオーキシンレベルの上昇制御により制御されていることを見出した。IAA30プロモーターの解析より、両植物ホルモンの制御情報を媒介するために必要とされるシスエレメント複合体を同定した。このシスエレメントは種子成熟におけるABAとオーキシン情報のノードである可能性が高く、結合因子の同定は今後の重要な研究課題と考えられる。さらに、IAA32の発現はABI3の制御下にあり、iaa32変異体の解析よりIAA32が完熟種子の一次休眠の獲得に必要であることを見出した。さらに、IAA32の過剰発現による一次休眠が増強されることを明らかにした。しかしながら、その増強作用は後熟や湿低温処理などの一次休眠打破処理で打ち消されることが見出された。したがって、IAA32のタンパク質の安定化や修飾などの転写後制御が種子休眠の維持と覚醒に重要であることが示唆された。
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