原形質流動は植物の細胞内運動であるが,その分子機構については不明な点が多い.われわれは「小胞体運動が原形質流動の原動力である」という仮説を考案し,その検証を進めている.本課題では,小胞体運動において全く未解明である小胞体側の機構を明らかにすることを目的としている.われわれは小胞体運動に異常を示す変異体を見出し,その原因因子が小胞体膜に局在するタンパク質であることを明らかにした.本年度は,小胞体運動においてこの因子が果たす役割を中心に,下記に示す成果を得た. <1>小胞体ネットワークin vitro再構成系では,小胞体由来の小胞からネットワークが形成されていく様子を観察できる.われわれが見出した小胞体運動変異体はネットワーク構造にも異常を示したため,in vitro再構成系を利用して原因因子が関与するステップを解析した.その結果,この因子は小胞融合のステップに関わることが明らかとなった. <2>免疫沈降とプロテオーム解析を組合せ,上記の融合因子と相互作用する候補タンパク質を見出し,この中から「小胞体局在」かつ「膜貫通ドメイン」を持つことが予測されるタンパク質を選抜して細胞内局在の解析を行った.その結果,これらの候補タンパク質はいずれも小胞体膜上に局在することが確認された.一方,候補タンパク質の変異体を確立し,小胞体を可視化して運動性と形態・分布の解析を進めている. <3>欠損変異体・機能部位の点変異体・過剰発現体等を用いた小胞体ネットワークin vitro再構成系は,上記因子の機能を明らかにする上で強力な解析ツールとなることが考えられる.しかし,植物体サンプルを用いたin vitro再構成系は成功例がないため,材料調製法や反応条件などの改良を進めている.
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