研究課題/領域番号 |
25440133
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柘植 知彦 京都大学, 化学研究所, 准教授 (50291076)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 植物形態形成 / 遺伝子発現制御 / mRNA代謝制御 / スプライソソーム / タンパク質相互作用 / 転写制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、植物のmRNA代謝制御機構に着目し、植物形態形成における遺伝子発現制御メカニズムの理解を目指す。 まず、スプライシングに必須であるSF3b複合体の全構成因子を植物で研究するために、酵母とヒトのSF3b構成因子を参照し、シロイヌナズナにおける相同因子群を同定した。その結果、7つのうち6つのサブユニットは複数の遺伝子がコードしていることが判明した。つぎに、これらの遺伝子機能を順次解析する逆遺伝学的アプローチと、SF3bタンパク質複合体構成因子の同定する生化学的アプローチを進めた。得られた成果は、国内外の学会、招待講演、国際雑誌論文などに発表した。以下に成果の一部を列記する。 1)SF3b構成因子候補のAtSAP130AとAtSAP130Bとが花粉形成に不可欠であることを報告したが、同SAP14bが、花粉形成に不可欠であることが判明した。発生学的解析の結果、特定の時期からその発生に異常がみられることを確認した。 2)SAP49は胚発生において不可欠であることが判明したので、解剖学的な解析を進めた結果、球状型胚以降の発生に異常を来すことを見出した。 3)生化学的アプローチを目指して、SAP130とSAP49にタグをつけたコンストラクトを作製し、大腸菌、シロイヌナズナで発現する系を確立した。現在、これにより、植物粗抽出物を用いたpull down、植物生体からのpull downと免疫沈降条件の最適化を行なっている。 4)さらにSAP130と結合するCSN1に注目し、csn1変異体にCSN1遺伝子を発現する部分相補植物が、花粉形成過程に異常を示すことから、その解析を進めた。その結果、花粉形態形成異常が現れる時期や表現型がSAP130 RNAi植物のそれとよく似ていることを見出した。現在、標的遺伝子群の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに計画通り研究が進展し、確実に成果を上げている。 逆遺伝学的手法による、シロイヌナズナSF3b構成因子の機能解析は、順調に変異体を得て解析を進めている。複数コピーによってコードされるサブユニットは多重変異体を作製するとともに、サブユニット間の多重変異体作製も開始した。その正解の一部としては、SAP49をコードする遺伝子の1つは偽遺伝子である可能性が示唆され、解析を進めている。また、特に転写が確認できるSAP49については、その転写産物と翻訳タンパク質がともに、主に核にあることを見出した。 逆遺伝学的解析によって特定の形態形成過程への関与が示唆された遺伝子については、発現誘導植物、遺伝子マーカーの導入、などを進めている。 生化学的手法においては、in vitroおよびin vivo系を用いたpull downと免疫沈降条件の最適化を行ないシロイヌナズナSF3b構成因子の同定を進めている。さらにCSN結合タンパク質であるPrp43、CPSF6の機能解析を進め、ともに機能欠失変異植物を得たので解剖学的解析を進め、関連遺伝子群との多重変異体を作製している。 これまで、SF3bの構成因子機能の解析をモデルに、普遍性が高い制御を行なうmRNA代謝制御因子群が、どのように特定の遺伝子転写を制御するのか、その分子機構を解明してきた。今後さらに、SF3bの解体に重要なPrp43 RNAヘリカーゼやCPSFの機能解析を行ない、植物におけるmRNA代謝制御機構の理解を目指す。一方、SAP130、SF3b、Prp43、CPSF6が各々、タンパク質分解を制御するCSNと結合するので、mRNA代謝へのCSN機能の関与を解明したい。 これまでに、当初予想していなかった研究材料を獲得して、今後さらに効率的で相補的な研究の進展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、すでに進めている研究を継承・発展させるとともに、mRNA代謝制御因子群が機能するのにタンパク質分解制御機構がどのように必要であるのかCSNとの相互作用解析を中心に、その分子メカニズムの理解を目指す。複合的アプローチを通じて、複雑な制御機構の全貌をひも解くことをめざし、これまでの実験に加えて新たに以下の2点に焦点を絞る。 1)Prp43は、スプライソソームの解体とリボソーム生合成の、異なる2つの機能を担っている。Prp43は植物では2コピー存在する。相同因子間で機能的重複があるのか使い分けがあるのかが焦点となる。特にPrp43機能欠損植物を単離したが、定常的な生育条件下では顕著な形態変化が見られないことから、環境変化への応答性を検証している。またRNAi法を用いた機能抑制する植物も作製して解析している。プロモーター活性解析、発現解析を組み合わせて植物におけるPrp43機能を解明する。さらに、CSN構成因子をコードする遺伝子の転写産物そのものが、光情報伝達下流で選択的スプライシングを受けていることが判明したので、この現象を指標に、植物におけるmRNA代謝制御機構とそのアッセイ系の確立を目指す。 2)CSNとmRNA代謝制御因子の相互関係の理解 CSNはCSN1のアミノ末端を介してSAP130とPrp43と結合している。この結合部位に必須となるアミノ酸に点変異を 入れた植物を作製している。CSNと各々の結合因子との間の相互作用を選択的に欠如する植物の解析を通じて、各タンパク質が担う生体内機能を素過程に分けて解析できると考えている。yeast two-hybrid法、免疫沈降法と合わせて、結晶構造解析を進めている。
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