本研究は、表皮細胞層で合成される超長鎖脂肪酸が、内部細胞層におけるサイトカイニン合成の制御を介し、植物の器官成長を制御する分子機構の解明を目的としている。今年度は以下の成果を得た。 1) 超長鎖脂肪酸およびブラシノステロイド情報伝達系の相互作用の解析: ブラシノステロイドの受容体であるBRI1の発現および局在が超長鎖脂肪酸の制御を受ける可能性について調べた。その結果、超長鎖脂肪酸の合成阻害剤であるカフェンストロールを処理したシロイヌナズナの根において、BRI1-GFPの細胞内局在が乱れることが観察された。一方、BRI1の遺伝子発現レベルはカフェンストロール処理によっても変化しなかった。 2) 超長鎖脂肪酸シグナルを介した器官成長を制御する新規因子の同定: カフェンストロールを処理しても器官成長が促進されないdefective in the cafenstrole response (dcr)変異体5系統のうち、ラフマッピングにより責任変異が存在する染色体上の位置を絞り込んだdcr3およびdcr4の2系統について、世代シーケンサーにより全ゲノム配列を決定した。得られた変異体特異的なSNPの中から、遺伝子のコード領域にホモで存在し、非同義変異を引き起こすものの探索を行った結果、dcr3については1個、dcr4については2個の責任遺伝子候補を得た。今後、同定した責任変異候補遺伝子のT-DNA挿入変異体の表現型の解析を行い、原因遺伝子の決定を行う必要がある。 3) 表皮から内部細胞層への情報伝達機構の解析: 表皮特異的、且つ誘導的に変異型カロース合成酵素cals3mを発現させた形質転換体では、カフェンストロール処理による器官成長の促進が損なわれることを見出した。このことから、表皮由来の成長制御シグナルの内部細胞層への伝達には、原形質連絡を介したシンプラスト輸送が関わる可能性が示唆された。
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