研究課題/領域番号 |
25440142
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
川上 直人 明治大学, 農学部, 教授 (10211179)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 胚乳 / 種子 / 糊粉層 / 表皮 / 細胞分化 |
研究概要 |
種子糊粉層の消失と芽生えの形態異常をもたらすtrg2突然変異の原因遺伝子を同定するため、欠失した10遺伝子のうち、胚乳で発現する2遺伝子(TRG2AとTRG2B)に注目して解析を行った。正常なTRG2B遺伝子でtrg2突然変異体を形質転換したが、表現型は回復しなかった。また、TRG2B遺伝子にT-DNA挿入を持つ機能喪失突然変異体は糊粉層細胞を保持しており、芽生えもtrg2の変異形質は示さなかった。一方、TRG2A遺伝子でtrg2を形質転換するとすべての変異形質がほぼ正常に回復している。TRG2A遺伝子にトランスポゾンが挿入された機能喪失突然変異体(trg2a)を単離したところ、芽生えの段階で致死となることがわかった。また、trg2とTRG2A/trg2aヘテロを交配し、遺伝型がtrg2/trg2aとなった個体を選抜したところ、trg2と同様な形質を示した。これらの結果から、糊粉層細胞と芽生えの形態はTRG2A遺伝子に支配されていると判断した。 trg2遺伝子座ではTRG2A遺伝子の最終エクソンのC末端側の配列が失われ、TRG2J遺伝子の第2イントロン以降が融合していた。またcDNAの塩基配列から、TRG2AのN末端側とTRG2JのC末端が融合した異常タンパク質が発現している可能性が示された。したがって、C末端領域に異常を持つtrg2タンパク質が糊粉層の喪失と芽生えの形態異常の原因であり、TRG2A遺伝子が完全に機能を失うと致死変異をもたらすと考えられた。 TRG2A遺伝子発現の組織・細胞特異性を明らかにするため、TRG2AプロモーターにGUS遺伝子を連結し、アグロバクテリウム法により野生型植物を形質転換した。現在、GUS遺伝子の発現が確認されたT2植物を育成しており、今後植物体および種子組織における発現の特異性を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
trg2突然変異がマップされた領域では10遺伝子が欠失していたことから、糊粉層の喪失が複数の遺伝子の変異によりもたらされた可能性が否定できず、どの遺伝子に支配されているかを同定するには、一つ一つの遺伝子の寄与を明らかにする必要があった。本研究開始前までに、trg2突然変異体をTRG2A遺伝子で形質転換すると変異形質が野生型形質にほぼ復帰することがわかっていたが、TRG2A遺伝子の機能喪失突然変異が得られていなかった。これは通常の生育条件ではTRG2A遺伝子の機能が完全に失われた変異体が成長できないためであり、ヘテロ個体由来の種子を寒天培地に播種することによって機能喪失変異体を初めてレスキューすることができた。また、trg2突然変異の表現型とTRG2A単一遺伝子の機能喪失変異の表現型が異なっていたため、trg2変異形質をもたらす分子基盤を明らかにする必要性が生じた。trg2遺伝子座と転写産物の分子構造、およびtrg2/trg2aヘテロ個体の解析から、糊粉層の消失はC末端領域に異常を持つtrg2遺伝子の作用によることを明らかにした。致死変異レスキュー法の確立や交配による遺伝的相補性検定に時間を要したが、糊粉層および芽生えの形態異常の原因がTRG2A単一遺伝子によることを年度内に明らかにすることができた。また、TRG2A遺伝子発現の組織・細胞特異性解析に若干の遅れが生じているが、すでに複数の系統で解析が進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度の結果より、trg2突然変異形質はTRG2B遺伝子では説明できず、TRG2A遺伝子のみの変異で説明できることが示された。今後はTRG2A遺伝子にターゲットを絞り、糊粉層・表皮形成における機能を明らかにすること、小胞輸送におけるTRG2Aタンパク質の機能を明らかにすることを目的とした研究を推進する。 シロイヌナズナでは糊粉層細胞の分化・発達に関する知見が比較的乏しい。そこで、正常な種子における胚乳・糊粉層細胞の発達過程をレーザー共焦点顕微鏡等を活用して明らかにするとともに、trg2およびtrg2a変異が発達のどの段階で、どのような異常をもたらすかを組織・細胞レベルで明らかにする。必要に応じて、透過型電子顕微鏡による細胞・オルガネラレベルの比較解析を行う。また、芽生えでは表皮の異常が認められるため、走査型電子顕微鏡で表面構造を詳細に観察する。 TRG2Aは、塩基配列から小胞輸送に関わるタンパク質をコードすると推測される。この可能性を検証するため、GFP等との融合タンパク質を発現させ、細胞内局在性を明らかにする。また、BrefeldinA処理およびエンドサイトーシス追跡マーカーのFM4-64染色を利用し、野生型とtrg2突然変異体の細胞におけるエンドソームを比較解析する。 さらに、穀類から見出された糊粉層・表皮形成関連タンパク質であるACR4やDEK1がシロイヌナズナ糊粉層形成に果たす役割を明らかにするとともに、これらの膜タンパク質の細胞内局在性に対するtrg2変異の影響を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品が計画時よりも安価に入手できたため、若干の差額が生じた。 試薬など、消耗品の購入に充てる。
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