研究課題
基盤研究(C)
植物の茎頂メリステムでは、細胞分裂後に一方の細胞は未分化状態を維持し、もう一方の細胞では分化のスイッチが入ると考えられるが、その分子機構の詳細は不明である。本研究では、葉の形態形成に関わる変異体と細胞分裂に関わる因子との遺伝解析、植物ホルモン含有量の測定とサイトカイニン合成酵素遺伝子群の発現解析を行い、葉の形態形成における分化スイッチの制御機構を明らかにすることを目的とする。今年度は葉の向背軸分化に異常のある as2 elo3 二重変異体で、サイトカイニン合成酵素 ISOPENTENYLTRANSFERASE (IPT) をコードする AtIPT3 の発現量が増加していたという結果をうけ、野生型、as2 elo3 二重変異体、表現型が一部回復したas2 elo3 ett 三重変異体の茎頂部と初期葉原基でのサイトカイニンとその関連物質の高精度な測定を行った。その結果、as2 elo3 二重変異体では、サイトカイニン生合成関連物質の量が増加していた。従って、葉の分化に異常のある個体の茎頂メリステム付近で確かにAtIPT3遺伝子の発現上昇に伴い、内在性のサイトカイニン量が上昇することが確認された。このサイトカイニン量の上昇が実際に葉の形成に影響を与えているかを検討するために、AtIPT3プロモーター制御のGUSレポーター遺伝子あるいはサイトカイニン応答のレポーター遺伝子でありTCSnew-GFP 遺伝子を持つ変異体を作製するための材料を準備した。25年度は、野生型における GUS 染色パターンを観察し、茎頂部の基部での発現を確認した。また、細胞分裂との関連を明らかにするために、ETT の下流で機能すると予想される KRP2, KRP5 の変異体を単離し、遺伝解析用の準備を開始した。
2: おおむね順調に進展している
第一に、茎頂部とその周辺のサイトカイニン量の精密な測定を行い、葉の形成に異常のある変異系統で、サイトカイニン量が上昇するという結果を得た。第二に、サイトカイニン合成酵素 AtIPT3 の発現をレポーター遺伝子を用いて解析し、ETT の発現パターンと比較して、茎頂部周辺でその発現領域が重なることを明らかにした。従って我々が立てたモデルのように、茎頂部で AtIPT3 が ETT の制御を受ける可能性がある。さらにレポーター遺伝子を変異体に導入するための材料を作製した。以上の結果は、サイトカイニン量が葉の分化に関わるか否かを解析するための基礎となるものであると考える。第三に細胞周期の抑制に関わると予想される KRP5 に関しても遺伝解析用の材料を作出した。as2 elo3 ett については、使用に十分な種子が得られず、アレイの解析は行っていないが、これまでの結果を用いて、マイクロアレイ解析用の遺伝子リストをさらにバージョンアップさせた。以上の点から、一部内容を変更したが、研究全体としては概ね順調に進展していると判断した。
(1) ELO3、ETT、KRP2、KRP5 との遺伝解析 平成25年度に作製した遺伝材料を用いて、krp2 または krp5 変異によりas2 elo3-27 の棒状の葉の形成が抑制されるか否かを確認する。また、as2 elo3変異体茎頂部でサイトカイニン量が有意に増加したことから、サイトカイニン合成酵素 ipt の多重変異体との遺伝解析の材料を作製する。また、サイトカイニン応答のレポーター遺伝子である TCS:GFP または AtIPT3p:GUS を as2 elo3 に導入した個体を観察し、サイトカイニン量またはIPT3 遺伝子の mRNA がどこで増加するかを調べる。elo3 は、他の as2 のエンハンサーよりも IPT3 の転写量の増加や ett 変異による表現型抑制の程度が低いため、解析が困難であると判断された場合には、他の亢進変異体を遺伝解析に使用できるよう、材料の準備をする。(2)as2の表現型を亢進する低分子化合物の解析 これまでのマイクロアレイ解析結果や遺伝解析から、葉の形態形成の調節には複数の系路が存在すると考えられる。そこで中部大町田研究室と連携して、中川博士らが見いだした、as1、as2 変異体で高頻度に棒状の葉を形成させるDNA損傷、DNA 複製等の阻害剤を投与し、as2 elo3 二重変異体における表現型の変化の有無を調べる。これにより棒状化に関わる系路の分類ができると期待される。(3)ELO3 の下流因子候補について、棒状の葉の形成と発現量の変化を明らかにするため、各種変異体を用いて real time PCR で発現解析を行う。今後 elo3 の変異体ではなく、他の亢進変異体を解析に使用すると判断したときのために、共通に発現の変化する遺伝子の候補を探してreal time PCR による確認を行う。
平成25年度は、後半にマイクロアレイ解析を行う予定であった。しかし、使用するための植物種子を十分に用意できなかったため、当初の計画を変更し、マイクロアレイ解析を行わなかった。そこでマイクロアレイ解析用の試薬の購入を取りやめ、その分の予算を繰り越すこととした。real time PCRによる発現解析を多く実施する予定であるため、その解析のためのRNA抽出、およびcDNA合成用試薬、real time PCR反応試薬を購入する。
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