研究課題/領域番号 |
25440144
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
小島 晶子 中部大学, 応用生物学部, 講師 (10340209)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 発生・分化 / 植物 / マイクロアレイ / クロマチン / 遺伝子ネットワーク / 転写制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて葉の形態形成に関わる変異体と細胞分裂に関わる因子との関係、植物ホルモンのサイトカイニン合成酵素をコードする遺伝子群の発現解析を行い、葉の形態形成における分化の制御機構を明らかにするための解析を行った。 葉の形態形成に関わるELONGATA3(ELO3)遺伝子は、ヒストンアセチル化酵素活性ドメインを持つタンパク質をコードする。ELO3はクロマチンの状態を変化させ、遺伝子の発現を変えるスイッチのような役割を果たすと考えて解析を進め、今年度は、以下のような成果を得た。 (1)野生型や葉の形態形成に異常のあるas2 elo3変異体における茎頂メリステムでのサイトカイニン量を再度測定した。 (2)サイトカイニン合成酵素遺伝子であるISOPENTENYLTRANSFERASE (IPT3)が葉の形態形成に与える影響について,様々な組み合わせの多重変異体を作製し、解析した。その結果、IPT3遺伝子はas2変異による葉の異常に部分的に関わるが、相同遺伝子であるIPT5やIPT7遺伝子は単独ではほとんど影響を与えず、IPT3の重要性を確認できた。一方、葉の表と裏の確立については、IPT3はAS2とELO3が関わる経路にはほとんど影響を与えなかった。またIPT3:GUSレポーター遺伝子による発現解析では、elo3変異はIPT3の発現パターンに影響を与えなかった。従ってIPT3とELO3とは異なる経路で、葉の形態形成に関与すると考えられる。一方EAL/BOB1が関わる経路はIPT3が部分的に関わる事から、葉の形成には少なくとも3つの異なる経路が存在すると考えられる。 (3) 当初の仮説とは異なる結果が得られたため、IPT3が関わると推測される別の変異体を用いた解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は複数の多重変異体を用いた遺伝解析の結果から、葉の発生のモデルは当初考えていたモデルとはやや異なる事が明らかとなった。最初に立てたモデルでは、AS2とELO3、EAL/BOB1が関わる経路の中で、IPT3など共通の因子が寄与する割合はほぼ同じであると予測していた。しかし、遺伝解析の結果、サイトカイニン合成酵素遺伝子であるIPT3とその相同遺伝子IPT5, IPT7の変異はas2 elo3の表現型にほとんど影響を与えなかったことから、葉の形成には少なくとも3つの経路が関与していることが示唆された。ELO3の下流因子については再度検討、解析する必要がある。3つの経路に関わる因子を明らかにする解析に向けて、異なる系統についても解析を進めることができ、来年度には新たな知見が得られると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)AS2, ELO3に関して、もうひとつの下流因子の候補で細胞周期の進行制御に関わると考えられるKIP-RELATED PROTEIN5 (KRP5)との関連性を解析する。(2) as2 #16 など、as2 elo3とは別の変異系統について新たに遺伝解析を行い、IPT3とKRP5のいずれの経路が関わるかを明らかにする。(3)ELO3に関しては、マイクロアレイデータより、再度下流の候補を選抜し、発現解析による検証を行う。as2 ealやas2 #16など、経路が異なると考えられる別の変異体のマイクロアレイデータも比較して異なるパターンの遺伝子を選ぶようにする。(4) ae2 elo3でサイトカイニン量が上昇しているにも関わらず、ipt3変異は葉の発生への影響が少なかったが、ae2 elo3 ett変異体で葉の表現型が回復し、サイトカイニン量が上昇しなくなるという結果とは矛盾する。この原因について検討するため、まずas2 elo3と他の変異体の茎頂メリステムでの種々のサイトカイニン量を比較する。また、as2 elo3において上昇したサイトカイニンに対して実際に応答しているかについて検討するため、レポーター遺伝子TCS:GFPを導入した個体の観察やサイトカイニン応答性の転写因子ARR5などの発現解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定だった試薬(葉の形態形成を阻害する低分子化合物)が在庫切れして納品を待っていたが、販売停止になり購入する事ができなかったため、試薬分の消耗品費を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
現在も販売されていないため、構造の似た化合物か、全く別の試薬を購入するかを検討して購入し、その試薬が種々の変異体の葉の形態形成にあたえる影響を解析する。
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