植物の茎頂メリステムでは器官原基ができる際、細胞分裂後に一方の細胞は未分化の状態を維持し、もう一方の細胞で分化のスイッチが入ると考えられるが、その分子機構の詳細は不明である。本研究の目的は、葉の形態形成に関わる因子と細胞分裂に関わる因子との遺伝解析を行い、関連する遺伝子群の発現解析を通して、葉の形態形成における分化スイッチの制御機構を明らかにすることである。今年度は、葉の器官形成に関わるAS2遺伝子と、それとは独立に葉の裏側因子を抑制するヒストンアセチル化酵素遺伝子ELONGATA3(ELO3)、RNAヘリカーゼ遺伝子RH10を用いて解析を行った。as2 elo3変異体では、葉の表裏(向背軸)の分化が不全となり、サイトカイニン合成酵素遺伝子AtIPT3とCDK阻害因子の遺伝子KRP5の転写量が上昇していたが、atipt3またはkrp5変異により、as2 elo3の向背軸性の異常は回復しなかった。ELO3の直接の標的候補に関して解析を行ったが、二重変異体で顕著に発現量が低下する遺伝子は得られていない。一方、本研究室の研究から、AS2とEAL/BOB1は、ETTの抑制を介してAtIPT3とKRP5の転写を抑えることで、葉の向背軸の確立に関わることが示された。そこで、as2 elo3とas2 rh10の変異体で発現が上昇しているNAC転写因子の変異を導入した結果、二重変異体の葉の向背軸性異常の表現型は抑圧された。従って、葉の器官分化に至る経路は複数存在しており、AS2とELO3またはRH10では主にNAC転写因子を介して、AS2とEALとは異なる経路で葉の器官分化に関わると考えられた。AS1-AS2はETTをエピジェネティックに制御し、RH10は核小体周辺に局在し、ELO3はヒストンを修飾することから、分化のスイッチにはエピジェネティックな制御が関与する可能性がある。
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