研究課題/領域番号 |
25440156
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中坪 敬子 (光永敬子) 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40192760)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アリールスルファターゼ / 細胞外基質 / 分子環境構築 / 形態形成 |
研究実績の概要 |
アリールスルファターゼ(ArsB)の細胞外基質としての分子環境とその構築機構及び形態形成における機能を明らかにするために、メダカを用いて、以下の研究を実施した。 1. ArsBの分子環境の解明……細胞外分泌型ArsBが豊富なメダカ脳を、細胞外基質を保持した条件下で固定し、免疫電顕によりArsBを含む細胞外基質の分子環境を解析した。ArsB の反応は、第三脳室脈絡叢の特定の間質細胞の細胞質内に存在する顆粒状構造で強かった。上皮細胞のライソゾーム、小胞体、細胞膜、糖衣にも、ArsBの反応が認められた。脈絡叢が発達していない菱脳室では、菱脳室底の上衣細胞の細胞質と細胞膜や繊毛の表面に発現が認められたが、免疫電顕の条件の改訂を行っている。 2. ArsBの分子環境構築機構の解明……ArsB 合成細胞の特定とその輸送経路を調べる目的で、樹脂包埋した脳を用いてArsB 発現領域の純形態微細構造を電顕により観察した。ArsBの顕著な発現は、第三脳室脈絡叢で密着して存在する種々の形態の間質細胞のうち、多数の顆粒状の構造体を細胞質に持つ細胞にあることを確認した。この顆粒は、小胞体と繋がるもの、細胞膜と融合して開放されているものがあり、内部には、繊維状の構造が観察された。ArsBの弱い反応が認められた菱脳室底では、分泌物が充満したり、細胞表面から遊離している形態を示す上衣細胞が認められた。ArsBは、主に第三脳室脈絡叢の間質細胞から上皮細胞をへて、脳室内に分泌されて機能している可能性が高いことが示唆された。 3. ArsB発現異常の影響解析……ゲノム編集により、ArsBのスルファターゼドメインからC末側を破壊したメダカを作成したが、初期発生、幼魚期、成魚期の発育速度や外部形態には野生型との差が認められなかった。ArsB疾患で異常が報告されている組織に注目し、成魚以降の加齢に伴う影響を解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では、メダカ脳をモデルに脳脊髄液循環を介したArsBの細胞外基質としての分子環境の形成過程とArsBの欠失が形態形成に及ぼす影響を解析することにより、ArsBによる形態形成制御モデルの構築を目指している。メダカ脳を用いた分子環境の解析では、脳室を構成する細胞の構造を維持した純形態の電顕解析により、第三脳室脈絡叢の特殊な顆粒状構造を持つ特定の間質細胞が主にArsBを合成し、脳室内に分泌している可能性を示唆する結果を得られたが、菱脳室の分泌性の上衣細胞等の免疫電顕に関しては、条件の更なる改善を必要としている。ArsBの発現の発生過程における変化等の解析によるArsB供給経路の明確化、ラットの脳におけるArsB の局在の比較解析も平行していたが、実験上の支障が生じ、遅れている。ArsBの欠失メダカを作成し、発生過程をおって解析をしたが、顕著な影響を検出できない原因を解決して、機能解析に結びつける必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
メダカArsBの分子環境とその構築機構、ArsB発現異常の影響解析を継続して行う。ArsBの分子環境の解析では、脳の形態をより保持した条件下での免疫電顕によるArsBの局在部位の再確認、ArsB と他の細胞外基質との局在部位を比較する。分子環境構築機構に関しては、ArsBの発現時期や領域等の変化を免疫組織化学や生化学的方法により調べ、ArsBの輸送経路を検証する。ArsB 発現異常メダカの解析では、トランスジェニック個体との交配により形態形成に及ぼす影響を詳細に調べる。機能補填の可能性も検討する。以上の結果を統合して、ArsBを含む細胞外基質環境の特徴とその構築経路、その結果がメダカの形態形成にどのように関与するのかを示す暫定モデルを構築する。順調に進む場合は、ArsBと細胞外基質との相互作用、ArsBの変異がArsBの分泌や細胞外基質環境に及ぼす影響等を解析することにより、暫定モデルを検証し、精度の向上を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
免疫組織化学的解析と変異体の交配実験に支障が生じたため、試薬等の支出が減ったことに起因する。
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次年度使用額の使用計画 |
ArsBの脳における分子環境や変異体の解析実験に使用する。
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