アリールスルファターゼ(ArsB)の細胞外基質としての分子環境とその構築機構及び形態形成における機能を明らかにするために、メダカを主に使用して以下の研究を実施した。 1. ArsBの分子環境の解明……細胞外分泌型ArsBを主に発現しているメダカ脳を用いて、細胞外基質を保持した条件下で免疫染色を行い、ArsBを核とした細胞外基質の分子環境を解析した。脈絡叢が発達している第三脳室では、脈絡叢の特定の間質細胞の顆粒状構造と上皮細胞の小胞体、ライソゾーム、細胞表層に、脈絡叢が発達していない菱脳室では、底表層の一部の特殊化した上衣細胞でArsBの反応を検出した。 2. ArsBの分子環境構築機構の解明……メダカ脳を樹脂包埋し、脳内部構造の解析とArsB 発現領域の微細構造の電子顕微鏡観察により、ArsBの分子環境構築に関わる経路を調べた。ArsBの顕著な発現は、第三脳室脈絡叢に存在する内部に繊維状構造物を含み、小胞体や細胞膜と繋がる多数の顆粒状構造を細胞質に持つ間質細胞にあることを確認した。ArsBの弱い反応を検出した菱脳室底には、細胞膜が破れ、内容物を分泌している様々な変性段階にある全分泌の特徴を示す上衣細胞を認めた。メダカ脳では、ArsBは、主に第三脳室脈絡叢の間質細胞で合成され、上皮細胞を経て脳室内に、菱脳室では、上衣細胞から選択的な全分泌により放出されて機能している可能性が示唆された。 3. ArsB発現異常の影響解析……ゲノム編集により、ArsBのスルファターゼドメインからC末側を破壊したメダカを作成し、発育速度、外部形態、疾患で異常が報告されている組織、運動能力を解析したが、野生型との顕著な差は、認められなかった。 今後は、ArsB変異メダカの解析を更にすすめ、今回得られたArsBの分子環境と構築機構の結果を統合することにより、ArsBによる形態形成制御モデルの完成に努めたい。
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