研究実績の概要 |
脊椎動物の多様性の背景には、神経系や内分泌系などの情報伝達系の進化と多様化が関わっている。下垂体は、脊椎動物に特有の内分泌器官であり、個体の生殖、成長、代謝といった生命活動に不可欠な様々のホルモンを産生・分泌している。しかし、最も原始的な脊椎動物とされる無顎類・ヌタウナギの下垂体は、極めて原始的な形態を示し、中枢である脳との連絡系がないことから、長い間、機能的なホルモンは生産されていないとされてきた。しかし、近年、ヌタウナギの下垂体に、生殖活動を制御するホルモン、生殖腺刺激ホルモン(GTH)が同定され、この動物群にも機能的な下垂体ホルモンが産生されていることが示されている。 本年度の研究活動においては、神奈川県三崎沖の相模湾より採取したヌタウナギ(Eptatretus burgeri)の下垂体を次世代シーケンス解析に供し、全リード数119,906、平均リード長は411.46塩基対、全contig数は11786、平均contig長は525.45塩基対規模の解析を終えた。得られたcontig配列内に顎口類の成長ホルモン(GH)に相同性を示す配列が得られた。ヌタウナギGH遺伝子の全塩基配列を同定するためにRACE-PCR法を行い、ヌタウナギGHをコードする870塩基対から成る遺伝子配列を世界で初めて単離した。ヌタウナギのGHは203個のアミノ酸から成り、GH分子の立体構造を特徴づける4個のシステイン残基は全て保存されていた。顎口類のGH分子には共通のコンセンサス配列として24アミノ酸残基が存在するが、ヌタウナギのGH分子内にはこの24残基中、16残基が保存されていた。また、ヌタウナギのGHのアミノ酸配列を他の魚種と比較すると、顎口類とは約27%、同じ無顎類であるウミヤツメとは約30%の相同性を示した。現在、ヌタウナギのGH分子の機能解析を進めている。
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