研究課題
アフリカツメガエル幼生の消化管を構成する上皮細胞は、甲状腺ホルモンの血中濃度が高まる変態期にそのほとんどが除去されるが、一部が脱分化して成体型上皮幹細胞となる。本研究では、この消化管再構築に関して、(A) 成体型上皮幹細胞の起源、(B) 幹細胞制御におけるNotchシグナル経路の役割を明らかにすることを目的としている。A. 幹細胞を標識するために、(i) Creドライバー、(ii) Creレスポンダーのトランスジェニック(Tg)ラインの確立を目指している。(i) では、成体型幹細胞特異的に発現する遺伝子のゲノム上流の単離を行った。今年度はHairy1のゲノム上流約5Kbを単離し、Tg用のDNAコンストラクトを作製した。(ii) では、Creの作用により赤色蛍光タンパク質dsRedを発現するTgラインの確立を目指して、CMVプロモーターおよびXeXプロモーターを用いたコンストラクトを作製した。これらのコンストラクトを用い、F0 Tg個体を徐々に得つつある。また、Tg作製時にCre mRNAを共注入し、dsRedが発現するようになることも確認した。B. Aの原理を応用し、Notch経路に関与する遺伝子の過剰発現系を構築中である。転写因子Su(H)の変異体(機能阻害)、Notch-ICD(機能亢進)の遺伝子を、Creレスポンダーとしてそれぞれコンストラクトを作製した。Creドライバーとしては、Dox誘導によりユビキタスにCreを発現するコンストラクトを作製し、F0 Tg個体を得た。このTg個体はすでに亜成体であり、性成熟後にF1 Tgを得られるか確認予定である。その他、NotchのリガンドであるJag1、Jag2、DLL1、DLL2の小腸における発現変動を解析したところ、いずれも変態最盛期に発現のピークを迎えることがわかった。本研究により幹細胞の起源と幹細胞制御におけるNotchシグナルの新たな役割を解明することができれば、幹細胞研究の分野でたいへん意義深いものとなる。また、両生類研究において新たな技術を提供することができる。
3: やや遅れている
当初の目的では、(A) ではCreレスポンダーTgラインの確立、CreドライバーTgの作製、(B) ではCreドライバーのTgラインの確立を前提として、プロモーター特異性の解析および幹細胞の起源の探索、Notchシグナル経路の機能解析にそれぞれ進むはずであったが、達成できていない。理由としては、主として以下のことが挙げられる。(1) 昨年度の遅れがそのまま影響している。(2) Tg作製が不調であった。昨年度の遅れを取り戻すために、今年度はTg作製(特に(A-ii)のCreレスポンダー)に注力したが、何度トランスジェネシスを試行しても、1匹もTgを得ることができなかった。塩基配列は正しかったため、失敗の原因は不明である。しかし、レスポンダー用のDNAコンストラクトを初めから作製し直したところ、Tg個体を得ることができるようになった。
Tg個体を得ることができるようになったが、F0個体を観察すると、導入遺伝子の発現はほとんどの個体でモザイクである。そのため、F1 Tgを使用する方が信頼性のあるデータを得ることができる。しかし、F1 Tgを得ることができる確率が低いため、今後はさらにF0 Tg個体数を増やすべく注力する。本研究では、Creドライバー、CreレスポンダーのダブルTgを作製する必要があるが、どちらかがライン化できれば、もう片方のDNAをphiC31かFLPリコンビナーゼと共注入することで、ダブルTgを比較的容易に得ることができると考えている。その他、Notchリガンドの発現もより詳細に解析し、本シグナル経路の役割の解明を目指す。
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
PLoS One
巻: 9 ページ: e93655
10.1371/journal.pone.0093655
巻: 9 ページ: e107611
10.1371/journal.pone.0107611
http://www.nms.ac.jp/nms/biology/Hasebe_publications.html