研究課題/領域番号 |
25440165
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
長山 俊樹 山形大学, 理学部, 教授 (80218031)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マーブルクレイフィッシュ / 走性 / 神経スイッチ / 薬理行動学 / 可塑性 / セロトニン / ドーパミン |
研究概要 |
マーブルクレイフィッシュの光走性の性質が昼夜で負から正へ逆転する神経機構を解明する第一歩として、H25年度は(1)逆転現象を定量的に解析し、(2)逆転を引き起こす神経化学的基盤を薬理行動学的に解析した。 (1)12L/12Dの明暗サイクルで飼育したマーブルクレイフィッシュ、LD個体を用い、明期から暗期への移行時、あるいは暗期から明期へ移行時のLD個体の光に対する応答性をT字迷路を用い解析した結果、i)移行後応答性は徐々に逆転し、4時間後には完全に逆転すること、ii)日中4時間暗黒下に置き暗順応させたLD個体は、正の光走性を示すこと、iii)恒暗下で飼育したDD個体は、日中の実験でも正の光走性を示すが、4時間光環境においた後実験すると負の光走性を示すようになることがわかり、外部光環境に同調して、光走性の性質が切り替わることが明らかとなった。 (2A)脊椎動物や節足動物において生体アミンが様々な神経修飾作用を持つことが知られている。この光走性応答切り替えに生体アミンが関与していると想定し、ザリガニ体腔内にセロトニン等の生体アミンを注射し、光刺激に対する応答変化を解析した結果、i)1μMセロトニン投与により、LD個体の光応答が負から正へ切り替わった、ii)節足動物においてよくセロトニンと拮抗的に作用するオクトパミン投与は、LD個体、DD個体共に全く影響を持たなかった、iii)脊椎動物においてよくセロトニンと拮抗的に作用するドーパミン投与はLD個体の応答性には効果はなかったが、DD個体の光応答が正から負へ逆転、セロトニンとドーパミンが拮抗的に作用していることが明らかとなった。 (2B)更に、LD個体の暗順応時にセロトニン受容体ブロッカーを、一方、DD個体の明順応時にドーパミン受容体ブロッカーを注射し、解析した結果、LD,DD個体共に順応に伴う光走性逆転は起こらないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、1)なぜマーブルクレイフィッシュの光走性の性質が昼夜で逆転するのか?それがザリガニ自身の内因性変化なのか、それとも環境に依存したものなのか、また、2)どのようなスイッチング機構が働いているのか?初年度解き明かそうと考えていたこの2つの研究目的について、当初の研究計画どおり、概ね順調に研究を遂行することができた。光に対するザリガニの応用逆転が環境への順応に基づいていること、更に、生体アミンのセロトニンとドーパミンが拮抗的に作用し、光走性の性質が切り替わることを薬理行動学的に明確に証明できた。また、それぞれの受容体ブロッカー投与により、光環境順応時の行動切り替えが阻害できたことから、セロトニンとドーパミン信号系が収斂する場こそが行動切り替えの本体であるという新たな仮説を打ち立てることができ、その終着点が何なのかを明らかにするための、明確な作業仮説を打ち出すことができ、次年度以降の詳細な研究ビジョンを組み立てることができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)セロトニン、ドーパミン受容体のほとんどはGタンパク質共役の代謝型受容体であり、二次メッセンジャー系を賦活化することで、作用を及ぼす。セロトニン、ドーパミン受容体はそれぞれ機能の異なるいくつかのサブタイプに分類され、ザリガニではセロトニン受容体は5HT1と5HT2サブタイプが同定されており、一方、ドーパミン受容体はD1、D2という2つのサブタイプが知られている。5HT1受容体は二次メッセンジャー系cAMP濃度を低下させ、5HT2受容体はIP3と呼ばれる別の二次メッセンジャー系の濃度を上昇させる。一方、D1受容体はcAMP濃度を上昇、D2受容体はcAMP濃度を低下させる。光走性スイッチの終着点がcAMP濃度の増減であると想定し、今後、2つの薬理行動学的解析を遂行する。i)LD個体の暗順応時に5HT1受容体、あるいは5HT2受容体に特異的に作用するブロッカーを注入し、それぞれの薬理効果を解析する。同様に、DD個体の明順応時にD1、D2受容体に特異的なブロッカー投与の効果を解析し、仮説の妥当性を検証する。5HT1受容体、D1受容体特異的ブロッカー投与時にのみ、光走性切り替えが阻害されるはずである。ii)正の光走性を示すDD個体に膜透過型のcAMPアナログを注射し、ドーパミン投与同様、負の応答に切り替わるか、また、明順応時にcAMP合成酵素阻害剤を投与することで、正から負への応答逆転が起こらないか解析し、cAMP濃度増加に伴い、ザリガニは負の光走性を示し、cAMP濃度低下で正の光走性に切り替わるという仮説の妥当性を検証する。 (2)走性とは遺伝的にプログラムされた生得的行動の基本要素の一つであり、光刺激を報酬あるいは忌避性の匂い刺激と組み合わせた条件付けを行うことで、走性の性質が学習によって可逆的に変化するか否かの検証を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
火災対応等業務多忙につき、XPから7へのコンピューター更新のための発注が遅れ、入荷が次年度になったため。 4月中にwindow 7マシーンを3台購入予定。
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