研究課題
脳内ペプチドの単一細胞レベルでの放出機構と、個体レベルで現れる持続的行動変化の間に隠れて研究が進んでいない、放出された神経ペプチドによる神経回路修飾の役割を探ることを目的として、生殖行動の動機づけに関わる終神経GnRH3ペプチド神経系を対象として以下の研究を行っている。本年度は、昨年度樹立したキンギョ嗅球神経細胞と終神経GnRH3ニューロンの共培養系に、開口放出に応じて蛍光強度が変化する蛍光タンパク質を終神経GnRHニューロン特異的に発現させ、脱分極により誘起される局所開口放出の時間経過と分泌小胞移動速度の変化をライブセルイメージングにより観察・解析した。また、終神経GnRH3ニューロン特異的に上述の開口放出に応じて蛍光強度が変化する蛍光タンパク質を発現するトランスジェニックメダカの作製にも着手した。さらにメダカにおける終神経GnRHニューロンの投射領域の一つである視蓋における単一ニューロンの視覚刺激応答特性についてin vivo実験系を立ち上げ、視蓋ニューロンの多くは視角で6~12度程度の大きさの受容野を持ち、その中に生じた運動に対して応答する様子を記録することができた。現在、この受容野構造に対するGnRHペプチドによる神経修飾作用の解析を試みようとしている。
2: おおむね順調に進展している
樹立したキンギョ嗅球神経細胞と終神経GnRH3ニューロンの共培養系に導入した蛍光タンパク質の蛍光強度変化が、同ニューロンからの開口放出を反映することを複数の方法を用いて検証し、現在論文投稿直前の段階になっている。また、この実験系を用いて複数の研究テーマが走り始めている。特に脱分極により誘起される分泌小胞移動速度に変化が生じることが示唆され、この結果は研究計画当初には予想していなかった新たなペプチド分泌制御機構に関する知見になる可能性がある。メダカ視蓋単一ニューロンの視覚刺激応答特性に対するGnRHペプチドの修飾作用に関する研究は実験系を立ち上げることはできたが、個体サイズが小さいために安定して単一視蓋ニューロンから記録をとり続けることが困難で記録系の改良を行っている最中であるが、おおむね順調に進展している。
キンギョ嗅球神経細胞・終神経GnRH3ニューロン共培養系を用いた研究に関しては、終神経GnRHニューロンを電気的に興奮させる頻度・パターンを段階的に変化させ、その際に生じる開口放出センサータンパク質蛍光強度変化が細胞体、神経突起によってdifferentialな変化を示す様子を定量解析するとともに、様々なCa2+動員機構を特異的阻害剤によって阻害した結果、細胞内の領域ごとに開口放出に変化が生じるかどうかを解析する。さらに培養中のGnRHニューロンを賦活化させGnRH放出を促した結果、周囲の嗅球構成細胞からなる神経回路の神経活動に及ぼす影響を、Caイメージングを用いて解析する。視覚系に対するGnRHペプチドの神経修飾作用を解析する研究については、単一視蓋ニューロンの受容野特性に関するデータをある程度蓄積した後に、同受容野構造がGnRHペプチドの脳内投与または終神経GnRHニューロンの電気刺激による賦活化によって変化するかどうかを解析する予定である。
新たに作成を開始したトランスジェニックメダカがまだ樹立されておらず、機能解析実験に必要な機材、消耗品を購入していないため。また開口放出センサータンパク質遺伝子を導入した培養終神経GnRHニューロンを用いた開口放出の時空間変化の解析においても本年度はさほど消耗品に費用がかからなかったため。
トランスジェニックメダカ作製および機能解析にかかる分子生物学実験に必要な消耗品と、初代培養系に必要な培養試薬、イメージング実験などの生理学実験に必要な電極・Caインディケーターなどの蛍光試薬などの消耗品の購入に主として使用する。また、視覚生理実験系の改良、培養細胞を用いたCaイメージング実験を行うために必要な機材の購入費用の一部に使用する予定である。
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