研究課題/領域番号 |
25440168
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
佐倉 緑 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (60421989)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナビゲーション / 場所記憶 / 昆虫 |
研究実績の概要 |
多くの昆虫は天空の偏光パターンから自らの方角を検出し、それをナビゲーションに利用する。本研究は、自然状態に近い偏光パターンの刺激を用い、偏光によって引き起こされる偏光定位行動と中心複合体の偏光感受性ニューロンの神経活動との相関を解析することで、ナビゲーション行動の神経機構を解明することを目的としている。 今年度は、昨年度に引き続き、行動記録の指標となる偏光定位行動の解析を行った。これまでに、拘束状態で飛行するミツバチが、上方からの回転するe-ベクトル刺激に対して、回転周期に同期した左右へのターンを繰り返す「偏光定位行動」を示すことを明らかとしていたが、定位方向の選択と採餌行動との関係は未解明であった。そこで今回、人工トンネルと人工フィーダーを使って個体の採餌経験を実験的に固定し、採餌場所と定位方向との関係を調べた。その結果、人工フィーダーで捕獲した採餌バチは巣箱方向への偏光に定位する傾向があることが明らかとなった。このことはミツバチが採餌飛行の際に経験した偏光情報を、飛行方向の選択のために実際に利用することを示している。しかし今回の実験では、ミツバチが巣箱の向きやトンネルからの空の見え方により異なる傾向の行動を示したため、今後、天空の偏光パターンの情報が実際にどのように利用されているのかについて、実験条件を検討しつつ確認していく必要がある。 また、電気生理学的実験に関しては、昨年度確立した中心複合体ニューロンからの慢性記録法を用い、電極の直径や本数を調整することにより偏光感受性ニューロンからより効率良く記録がとれる方法への改良を目指した。現在は、この方法を用いて実際に記録された偏光刺激に対する応答と記録部位についての解析をすすめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題において、今年度は電気生理学的手法の改良と偏光定位行動と神経活動の同時記録を予定していた。このうち、電気生理学的手法の改良に関しては、昨年度より効率よく偏光応答が記録できるようになり、今後の実験に十分に利用できるまでになっている。しかし、急激な円高により、予定していた刺激装置に必要な偏光板の確保が難しくなったため、偏光定位行動と神経活動の同時記録までには至らなかった。一方、自然状態の採餌行動において、偏光定位行動と採餌経験とが直接関係していることを示唆する行動学的データをとることに成功した。この成果は、本課題の最終目標である実験系での場所学習を利用した行動操作に不可欠なもので、最終年度に先駆けて前倒しで行ったものである。以上を総合して、おおむね順調であると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度初めて確認できた、採餌経験と偏光定位行動との関係については、引き続き様々な実験条件での行動を解析し、採餌行動における偏光利用の実態を解明していく。これにより、実験系でより自然状態に近い採餌行動を発現させることができると考えている。また同時に、天空の偏光パターンを模した刺激装置を完成させ、偏光定位行動と偏光感受性ニューロンの活動の同時記録を目指す。円高による偏光板の値上がりにより、刺激装置の構築が難しい場合には、代替えの手法として、単純な偏光刺激に対する応答からシミュレーションによって自然状態でのシステムの動作を予測することも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
刺激装置を構築するための偏光板等の光学部品の価格が円高により高騰し、予定していたものが入手不可能であったため。
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次年度使用額の使用計画 |
代替え品もしくは新たな購入先を選定の上、計画していたものと同等の装置の構築を目指す。それが不可能な場合には、刺激装置の構築は諦めてシミュレーションなどの別の方策を探り、そのための備品購入に充てる。
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