研究課題
高等動物の体内でCO2感知・応答(センシング)に関わる細胞(化学受容体)は中枢神経系や動脈に存在し、おもに呼吸制御に関わる。また嗅覚・味覚受容にもCO2に応答する神経細胞・器官が存在し、体外環境のCO2によって動物の基本行動(忌避・採餌・配偶行動)が決定される。すなわちCO2は好気的細胞代謝で生じる主要な副産物であると同時に、生体の機能や恒常性を司る重要なシグナルメディエーターとして認識されているが、CO2センシングの分子機構の解明は未だ黎明期と言えよう。その一因として、CO2センシング機能は複雑な感覚器官内のごく一部の神経細胞にしか存在せず、また扁桃体や中枢神経にあっては、生体内イメージングの技術的制約が障害となっている。頭足類ヤリイカには、2種類の雄(スニーカー雄とペア雄)が存在し、スニーキング交接を行うスニーカー雄のつくる精子には、好気的呼吸によって排出する二酸化炭素に集合する性質があることをこれまで明らかにしている。また、2型雄の精巣に発現するRNAと精子に存在するタンパク質を網羅的に比較解析してところ、顕著な違いの1つとして、解糖系酵素が見つかっていた。そこで今回、スニーカー精子(S)とペア精子(P)を用いて、エネルギー代謝に関わる機能を比較したところ、①運動持続性と受精能の維持においてS>Pであった。②この違いは細胞内のグリコーゲン量で説明できることが分かった。③S精子だけがもつ集合形質は、集合体の微小環境を嫌気的にし、その結果、酸化的リン酸化非依存的にATPが産生され、乳酸を大量に排出する。④乳酸排出によって、環境が酸性化し、それにより自己集合が安定化される。⑤一連の代謝制御機構によりS精子は長寿命を可能とする。⑥S精子は雌の貯精嚢に長期間蓄えられることから、適応的な生理的機能として説明されることが明らかとなった。
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Review in fish biology and fisheries
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