前年度までの研究により、実験動物(シリアンハムスター)の人工的冬眠誘導をコンスタンに起こすことが難しいことが判明した。そこで本年度は、脳内の寒冷受容領域を解明することと、本研究の目的を遂行するために、変温動物の脳を使った研究に着手した。 脳内寒冷受容細胞を解明するために、寒冷暴露のマウス脳のpERK免疫陽性細胞の増減、並びにプロスタグランジン受容体のうちのE2受容体免疫陽性構造の増減を検討した。pERKはストレス応答性の神経細胞を検出するために使われるマーカーである。寒冷暴露のマウス脳では、対照群と比較し、pERK免疫陽性細胞が増加する傾向にあった。特に視床下部の室傍核、視索上核、小細胞性室傍核でその傾向は顕著であった。E2免疫陽性細胞体は室傍核、視索上核にみられ、これら神経細胞体はプロスタグランジンに応答性の神経細胞と考えられる。形態学的な観察では、寒冷暴露による免疫陽性構造の変動はあまり顕著ではなかった。しかし、E2免疫陽性神経線維は視床下部に高密度に分布し、しばしば神経細胞体を取り囲む形状を示す。このことはプロスタグランジン受容性の神経細胞であることを示唆する。 一方、変温動物である小型爬虫類の脳内にも、プロスタグランジン合成の律速酵素であるcyclooxygenase 2 (Cox2)免疫陽性細胞と、プロスタグランジンの受容体の一つであるE2受容体の免疫陽性構造が存在することが判明した。このことは、爬虫類の脳内にもプロスタグランジン作動性神経系が存在することが示唆される。今後、この変温動物の脳を使って低温下における神経細胞の生存メカニズムを解明する計画である。
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