研究実績の概要 |
一般にトランスポゾンには保存的自然選択が働かないため、同じ宿主内で長い間転移活性を保って存続するのは難しいとされている。ところが我々はネッタイツメガエルの非自律型トランスポゾンT2-A1, T2-Cが、数千万年もの長期間にわたり転移活性を維持していることを見いだした。この事実は、これらの転移が何らかの形で宿主に有益だったために、自然選択によって転移活性が保存されてきたことを示唆している。本研究はこれを検証するために、T2-A1, T2-Cの転移を触媒する転移酵素を同定することを目的とする。 研究期間を通じて、転移酵素の候補であるKol転移酵素の試験管内蛋白質合成系を構築し、この合成酵素のトランスポゾン末端配列への結合あるいは切り出し反応のアッセイ系の構築を進めてきた。平成27年度には新たにコムギ胚芽系の試験管内合成系を用いてKol転移酵素の合成を行い、その活性解析を進めている。しかし、バッファの組成等の様々な条件を検討したものの、明白な蛋白質機能を捉える事はできていない。またこれとは別に大腸菌で発現させた蛋白質の機能を大腸菌内でアッセイする系の構築も試みたが、それもまだ成功していない。 これと並行して、アフリカツメガエルのゲノム情報を参照して、より実験に適切な酵素-末端配列の組合わせを探す方針をとり、ゲノム配列からトランスポゾンおよび転移酵素を探索・分類するパイプラインを作成し、これを用いてアフリカツメガエルのゲノム解析を行ない、ネッタイツメガエルとの比較を行なった。また平成27年度には、上記のパイプラインを応用して、転移酵素の保存性の高さがKol転移酵素に特異的なのか、それともツメガエルのトランスポゾンの一般的な特徴なのかを調べた。その結果、Kol転移酵素はDNA型トランスポゾンの中でも特に保存性が高く、宿主にとって有益な働きをするように進化してきたことが分かった。
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