ナメクジやアメフラシなど、軟体動物腹足類の中枢神経系には、巨大なニューロンが多く存在する。申請者らはこれまでに、ニューロンのDNA増幅が体の成長、肥満により促進され、同時にニューロンのサイズそのものも大きくなること見出している。さらにDNA増幅の結果、ある種の転写産物の増加も認めている。また、DNAの増幅は、ゲノム全体の一様な増幅(つまり倍数化)であることも示している。しかしながら、DNAを倍数化させて物質合成を高めることの必要性を、ニューロンがどのように感知しているのか、および倍数化の結果、あらゆる転写産物が一様に増えるのかどうかも明らかではなかった。 そこで本研究では、摘出した脳を他個体の体腔に移植する「脳まるごと移植技術」を用いて、投射先を持たない移植脳はホストナメクジの栄養状態にかかわらず一定のレベルのDNA増幅しか起こさないことを示すことで、投射先からのフィードバック情報によりDNA増幅に結び付けていることを示唆する結果を得た。さらに、内在性の脳において手術により神経投射を切断すると、切断された側の脳にあるニューロンでDNA増幅の頻度が低下したことからも、DNA増幅には末梢臓器への投射が必要であることが分かった(Matsuo et al. 2013)。 次に代表者らは、全く同じ大型のニューロン群で発現する2種類のニューロペプチド遺伝子を同定した。そして、これらのmRNA量が、ナメクジの肥満に伴い一方は増加を、他方は減少するということを見出した。つまり、同一のニューロンにおいて、倍数化に合わせて発現量が増える遺伝子と減少する遺伝子が存在することが明らかになった。このことは、鋳型DNAが倍数化により一斉に増えても、そこから読みだされる転写産物の量は個々に厳密に制御されているということが示唆された(Nakamura and Matsuo、投稿中)。
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