細胞がゲノムを安定に維持するには、分裂期において姉妹染色分体間の対合を切断し、染色体分離を引き起こすプロテアーゼ、セパラーゼの適切な活性制御が重要である。申請者はほ乳類のセパラーゼが分裂期の異なる時期に様式の異なる複数の自己切断を行うことを見出しており、本研究は、こうしたそれぞれの自己切断の性質や制御の解析を行うことで、その生理学的な意義を解明し、分裂期におけるセパラーゼの急激な活性化機構について明らかにすることを目的としていた。 これまでに、BAC mutagenesisの系を用いて、マウスのセパラーゼを変異させ、特定の自己切断が起きないように細工した変異セパラーゼを作製し、これをヒト子宮がん由来のHeLa細胞に導入して、変異セパラーゼの安定発現細胞株を取得した。さらに、なるべく生理的な条件下でのこれらの特定の自己切断が起きない変異タンパク質の機能を調べるため、作製したマウス由来の変異セパラーゼ安定発現株において、内在性の野生型ヒトセパラーゼのみをRNAiによって除去することにより、外来性の変異セパラーゼと内在性の野生型セパラーゼを完全に置き換えることができる系も確立した。また、これらの細胞と系を用いて、特定の自己切断が起きない条件下での細胞や染色体の挙動を調べ、それによって、それぞれの自己切断が持つ性質や制御についての解析を行い、いくつか興味深い知見を得ることもできた。 しかしながら本年度は、現職場である沖縄科学技術大学院大学との契約切れのため、これ以上の解析の続行が困難となり、本研究をここで廃止することとなった。このため本年度はこれまでに得られたデータの整理に終始し、新たな解析を行うことはできなかった。 これまでの本研究で得られた結果は姉妹染色体分離機構の理解を大きく助けるものと考えており、いずれ機会があれば、さらなる解析を加えたうえで発表できればと思っている。
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