本研究は、漁業活動を模した選抜実験により生活史形質に違いを既に生じた魚の集団を対象に多型解析をおこない、表現型の進化の背後にある遺伝的基盤の解明を目指している。これらを通じて、漁業活動によって引き起こされる、魚個体群における進化についての理解を深めることを目的とする。 ①本年度は、共同研究者を通じて昨年度末に得られたオオクチバスサンプルについて、まず、注目する遺伝的領域を決定した。先行研究を踏まえ、成長に関わる因子と行動特性・気質に関わる神経伝達物質に違いがあると仮説を立て、多型解析を開始した。その結果、成長に関わるある遺伝子に関して、集団間で違いが検出された。また、ドーパミン受容体遺伝子に関して、集団間で明確に分化していることがわかった。 ②ゼブラフィッシュにおいて、異なった選択を受けた3つの集団(大型個体を選抜、ランダム、小型個体を選抜)間でSNP頻度を比較したところ、集団間で頻度に有意な違いが見出された。そこで、当該SNPの周辺にある遺伝子を検討し、生活史形質の表現型レベルの違いを生みだした遺伝子を探索した。一方、生活史形質において実際に生じた表現型の小さな違いが個体群動態にどのような影響をおよぼすか、数値計算シミュレーションにより検討した。その結果、表現型のわずかな違いが個体群成長率の大きな違いをもたらすことがわかった。特に、実際の漁業の捕獲様式に近いと考えられる小型個体を選抜し繁殖に用いた集団に見られた生活史形質は、漁業活動下では適応的であるが、漁業活動が停止した後は不利益をもたらすことがわかった。
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