研究課題
基盤研究(C)
脊椎動物の姉妹群である尾索類(ホヤ,オタマボヤなど)の発生におけるレチノイン酸の役割と,その進化過程を解明することを目指している。ホヤ胚のさまざまな組織の分化にレチノイン酸がどのように関与するか調べた。心臓前駆細胞の分化や細胞移動にレチノイン酸が関与する可能性を考えていたが,レチノイン酸の合成酵素や受容体の遺伝子をノックダウンしたり,合成酵素阻害剤で処理をしたりしても,これまでのところ心臓細胞に異常は認められていない。中枢神経系においては,Hox1の転写活性化にレチノイン酸が必要であることを証明したが,Hox1が中枢神経系の部域化や分化にどのように関与するかは今後の課題である。表皮においては,レチノイン酸によって強く応答して領域特異的に発現する遺伝子が,E3ユビキチンリガーゼに似たリング・フィンガータンパク質をコードすることがわかった。現在,この遺伝子の転写がレチノイン酸依存的に活性化する仕組みを解明するため,レポーター解析を進めている。また,この遺伝子の役割を解明するため,モルフォリノオリゴとドミナントネガティブ法による機能解析を行っている。レチノイン酸合成酵素(Raldh2)が部域特異的に発現する仕組みは脊椎動物においても未解明である。本研究ではレポーター解析によって,尾芽胚の尾部最前列の筋肉細胞の一部でRaldh2が転写されるために必要な領域を絞り込んだ。オタマボヤは,ホヤと近縁であるが,ゲノム中にレチノイン酸の合成酵素や受容体を持たない。にもかかわらずHox1の発現パターンはホヤとオタマボヤとでよく似ている。オタマボヤHox1の転写を活性化する仕組みは,ホヤとオタマボヤの共通祖先にあり,ホヤにもそれが残っていると考え,オタマボヤHox1レポーター遺伝子をホヤ胚に導入し,転写活性化に必要な領域を絞り込んだ。
2: おおむね順調に進展している
脊椎動物においては,心臓の各部分の部域化にレチノイン酸が関与している。ホヤにおいてはレチノイン酸合成酵素(Raldh2)が初期尾芽胚の予定心臓細胞で発現し,中期尾芽胚では予定心臓細胞に隣接する筋肉細胞で発現する。予定心臓細胞は,その後体幹部の前方に向かって移動し,最終的に心臓原基へと分化する。私たちは,予定心臓細胞の移動や分化にレチノイン酸が重要な役割を担っていると考えて,レチノイン酸の機能阻害を行った胚における予定心臓細胞の分化マーカーや細胞移動に異常が生じないか調べたが,現在までのところ目に見える異常は認められておらず,引き続き方法を工夫して調べる予定である。一方で,申請書には盛り込まなかったが,表皮においてレチノイン酸に強く応答する別の遺伝子に関する研究を進めており,その遺伝子に関するレポーター解析が進み,イントロン中のエンハンサーにレチノイン酸応答エレメントの候補となる配列を発見した。オタマボヤHox1の上流配列をレポーター遺伝子に連結してホヤ胚に導入し,転写活性を調べる実験は順調に進んでいるが,オタマボヤの上流配列がオタマボヤ胚において正常に活性化するかどうかは調べていない。オタマボヤにレポーター遺伝子などを導入する技術は確立していないので,バルセロナ大学のCristian Canestro博士に協力を仰いで,オタマボヤ胚を用いた実験手法を学ぶ予定であった。そのため平成25年度にはバルセロナ大学への渡航費を計上していたが,諸事情によりバルセロナ行きを次年度に延期し,そのための予算は繰り越した。今年度は,大学院生などの研究室構成員が予想外に少なくなり,Raldh2遺伝子のレポーター解析が思うほどに進展しなかった。上述のように,当初見込んだ成果を挙げられなかった部分と,予定外に進展した部分とを勘案した。
予定心臓細胞の分化や移動をレチノイン酸が制御するかどうかについては,これまでに使用していないマーカー遺伝子を活用したり,レチノイン酸の機能阻害の方法を変えて,引き続き調べる。表皮特異的に発現するリング・フィンガータンパク質の転写は,レチノイン酸によって強く活性化する。この遺伝子の3 kbのイントロン中に,レチノイン酸依存的なエンハンサーが存在することがわかった。このエンハンサー中のレチノイン酸応答エレメントを同定し,その配列にレチノイン酸受容体が結合することをゲルシフト解析で確認する。また,モルフォリノオリゴを用いてこの遺伝子の機能を阻害し,胚発生(表皮細胞の分化や形態形成など)における役割を解明する。Raldh2遺伝子は,ホヤ尾芽胚の尾部最前列の3個の筋肉細胞において発現する。平成25年度の研究でRaldh2の転写開始点上流の配列中に,3個のうち最も背側の1個の細胞において転写を活性化するエンハンサーがあることがわかった。このエンハンサーの配列をできるだけ短い領域に絞り込み,それを活性化する転写因子を同定する。一方,腹側の2個の細胞で転写を活性化するエンハンサーは同定されていないので,平成26年度は,そのエンハンサーの同定を目指す。オタマボヤHox1遺伝子のレポーター解析については,まずホヤ胚における領域特異的な転写活性化に必須の配列を特定し,そこに結合して活性化する転写因子を同定する。ゲルシフト解析などにより結合を実際に確認する。また,オタマボヤHox1遺伝子のイントロン中にもエンハンサーとして機能する配列があるかどうか,レポーター解析を行って調べる。研究協力者のCanestro博士(バルセロナ大学)あるいは連携研究者の西野敦雄博士(弘前大学)に協力を仰ぎ,オタマボヤ胚へのレポーター遺伝子の導入実験も行う。
平成25年度には,バルセロナ大学のCristian Canestro博士の研究室を訪ね,実験動物としてのオタマボヤの扱い方,遺伝子導入とレポーター解析の手法の開発,オタマボヤゲノムと遺伝子断片の取得,および情報交換を行う予定であった。しかしながら,研究の進展状況と,研究室構成員の事情,またその他様々な理由で比較的長期にわたる出張の機会を持てなかったため,バルセロナ大学への出張は次年度に延期した。そのため,渡航・滞在に関わる費用と共同研究のための試薬購入費用などの一部を次年度に使用する予定とした。平成25年度に訪問できなかったバルセロナ大学に訪問し,Canestro博士と共同実験と,情報・資料の交換を行う予定である。そのために必要な費用は,平成25年度に使用せずに残してあるため,平成26年度について当初予定していた使用計画については予定通りに行う。
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