研究課題/領域番号 |
25440192
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
藤原 滋樹 高知大学, 教育研究部自然科学系, 教授 (40229068)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脊索動物 / 進化 / レチノイン酸 / 遺伝子発現制御 / レチノイン酸合成酵素 / レチノイン酸分解酵素 / ホヤ / オタマボヤ |
研究実績の概要 |
脊椎動物の姉妹群である尾索類(ホヤとオタマボヤ)の発生におけるレチノイン酸の役割と,その進化過程を解明することを目指している。 ホヤ胚においては,尾部の左右に並ぶ数十個の筋肉細胞のうち,最前列に並ぶ片側3個ずつでレチノイン酸合成酵素(Raldh2)が発現する。脊椎動物のRaldh2は体幹部前方の体節中胚葉で,ホヤとよく似たパターンで発現している。しかし,胚におけるRaldh2の部域特異的発現を調節する仕組みは不明である。本研究では,レポーター解析によって,ホヤRaldh2遺伝子の上流配列中に転写活性化を担うエンハンサーを同定した。片側3個の筋肉細胞のうち,最も背側の1個は64細胞期のB7.8割球に由来し,腹側の2個は64細胞期のB7.5割球に由来する。この二つの系統における発現が,異なるエンハンサーエレメントによって調節されることが明らかになった。B7.8系統の筋肉細胞において活性化するエンハンサーについては,100 bp以下の狭い領域に必須のエレメントがあることを発見し,現在そこに結合する転写因子を同定することを試みている。 ホヤのレチノイン酸分解酵素(Cyp26)は,将来脳になる細胞で原腸胚期から発現し,尾芽胚期になると尾の付け根の表皮と神経索で発現する。この発現パターンも,脊椎動物のCyp26の発現パターンとよく似ている。しかし,Cyp26の転写調節の仕組みもほとんどわかっていない。本研究では,ホヤCyp26が脳や尾の付け根で発現するのに必要なエンハンサー領域を数百塩基以内に絞り込んだ。ホヤにおいても脊椎動物においても,レチノイン酸がCyp26の発現を誘導する。本研究では,エンハンサー中にレチノイン酸応答エレメントがあることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レチノイン酸合成酵素Raldh2と分解酵素Cyp26の相補的な(互いにオーバーラップしない)発現パターンは,胚においてレチノイン酸の影響が及ぶ領域を決める重要な要因となっている。従って,両遺伝子の領域特異的発現の仕組みを解明することは極めて重要な課題である。しかし,これまで脊椎動物においてもホヤにおいても,その仕組みはほとんど明らかにされていなかった。今年度の研究では,それらの遺伝子の領域特異的な転写活性化を担うエンハンサーエレメントを数十~数百塩基対にまで絞り込むことができた。これまでに,私の研究室では10年近くにわたってこの研究を続けてきたが,今年度には格段の進展が見られた。 ホヤのHox1は,脊椎動物のホモログと同様,最も強くレチノイン酸に応答する標的遺伝子の一つである。しかし,ホヤに近縁なオタマボヤにおいて,Hox1はレチノイン酸に全く応答しない。それなのに,ホヤとオタマボヤのHox1の発現パターンはよく似ている。しかも,オタマボヤHox1の上流配列は,ホヤ胚の神経索においてエンハンサー活性を示す。ただし,この発現はレチノイン酸によっては活性化しない。従って,ホヤの神経索でオタマボヤエンハンサーを活性化する転写因子が何か(それは核内レチノイン酸受容体ではないはずである)を突き止めることは,ホヤとオタマボヤの進化の仕組みを解明するための重要な主要な課題の一つである。今年度は,重要なエンハンサーエレメントをさらに狭い領域に絞り込むことができたが,この研究を行っている大学院生の就職活動などのため,当初の予定よりは研究の進展が遅れている。 Raldh2とCyp26のエンハンサーの解析が大きく進展したことと,ホヤとオタマボヤのHox1の比較発生学的解析に目立った進展がなかったことを考え合わせ,達成度を評価した。
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今後の研究の推進方策 |
Raldh2とCyp26の領域特異的な転写調節を担うエンハンサーについては,ゲルシフト解析などによる転写調節因子の同定と,転写調節因子の結合配列に点突然変異を入れるなどの機能解析に力を入れる。昨年度までに行ったゲルシフト解析については,タンパク質合成の成績が思わしくなかったので,システムを換えて活性の高いタンパク質を多量に合成することを試みる。 また,胚の中でレチノイン酸が影響を及ぼす範囲を敏感に検出するため,レチノイン酸応答エレメントを,いくつかのコアプロモーターの上流に連結して,レポーター遺伝子(レチノイン酸センサー)を作製している。これが完成すると,レチノイン酸の作用が及ぶ組織や領域を明らかにできるので,この研究課題全体の進展に寄与することが期待される。 レチノイン酸標的遺伝子のうち,尾の付け根の表皮で発現するリングフィンガー遺伝子についてはvivo-モルフォリノを用いた機能阻害実験を試みている。モルフォリノオリゴは,スプライシングを阻害することを狙って第一イントロンの5’ スプライス部位を標的にしているので,その効果を確かめるためにRT-PCRを行う。また,機能阻害を行った胚の細胞の形態と遺伝子発現を観察する。 オタマボヤHox1のエンハンサーがホヤ胚の神経索において活性化するために必要な領域が絞り込めたら,そのエンハンサーがオタマボヤ胚の神経索でも活性化するかどうか調べる。オタマボヤにおいてはレポーター遺伝子の導入などの技術が未だに確立されておらず,当初の計画ではバルセロナ大学で共同研究を行う予定であった。しかし,この研究課題が最終年度となることもあり,国内(弘前大学)の研究協力者に協力を仰ぎ,オタマボヤ胚への遺伝子導入技術を修得したうえで,オタマボヤ胚におけるレポーター解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では,平成25年度にバルセロナ大学を訪問し,Canestro博士との共同実験,および情報・資料の交換を行う予定であった。しかしながら,研究の進捗状況や学内での大学運営・管理業務などの事情から平成26年度にも結局バルセロナ大学訪問は叶わなかった。そのため渡航・滞在に関わる費用を次年度に使用する予定とした。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度で研究費の総額が少なくなることと,論文発表に向けて詰めの実験をたくさん計画していることもあり,バルセロナ大学ではなく,国内の研究協力者(弘前大学・西野敦雄博士)の協力を仰ぐことにしたい。そのための旅費・滞在費に充てる予定である。
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