研究課題/領域番号 |
25440203
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池田 博 東京大学, 総合研究博物館, 准教授 (30299177)
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研究分担者 |
岩坪 美兼 富山大学, 大学院理工学研究部, 教授 (10201344)
矢野 興一 岡山理科大学, 生物地球学部, 助教 (60582757)
高山 浩司 東京大学, 総合研究博物館, 助教 (60647478)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 系統地理 / 倍数性 / オトコエシ / 生物地理 / 染色体 / DNA |
研究実績の概要 |
この研究は、著しい種内倍数性を示すオトコエシ(オミナエシ科)について、分子系統学的・細胞遺伝学的・形態学的手法を用い、染色体の倍加を伴う植物の進化・多様化の様相を明らかにするとともに、過去の気候変動にともなう分布域の変遷を推定し、日本の温帯フロラの起源と発達について考察することを目的とする。 平成26年度は、集団ごとのサンプル数を増やし、より詳細な検討をおこなった。特にこれまでに細胞学的変異が大きいことが明らかとなっている西日本を中心とし、その対照として北海道でも採集をおこなった。九州から27集団231個体、四国から18集団131個体、中国地方から6集団56個体、それに北海道から4集団39個体の合計55集団457個体を採集した。すべての個体について、1) 形態解析のための押し葉標本を作製し、2) DNA解析のために、葉をシリカゲルで乾燥させ、3) フローサイトメトリ法による倍数性の検証のために、生の葉を採取した。また、一集団3、4個体について、細胞遺伝学的研究のために生株を採取した。 フローサイトメトリ法により、九州地方には2倍体、4倍体、6倍体、10倍体、12倍体が、四国地方には4倍体、8倍体、10倍体、12倍体が、中国地方には8倍体、10倍体、12倍体が分布していることが明らかになった。それに対して北海道には4倍体のみが分布しており、西日本で細胞学的変異が大きいことが確認され、これまで確認されていなかった6倍体が存在することも確認された。また、同じ集団内に複数の異なる倍数体が含まれる集団も見いだされた。しかし「同じ集団」として採集したものでも、やや生態的に異なる立地に生育している場合も見られ、小さな生態的違いにより住み分けている可能性も考えられた。 形態的解析、細胞遺伝学的解析、分子系統学的解析については、現在準備を進めている状態であり、今後順次作業を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、オトコエシについて、細胞学的変異が大きいと考えられる西日本を中心としてサンプリングをおこなった。その結果、これまでの予備的研究通り、西日本、特に九州地方において細胞学的に高い変異性が観察された。しかしながら、これまで想定していたような、集団ごとに倍数性が決まっているのではなく、同じ集団あるいは隣り合った集団で異なる倍数体が生育していることが確認された。これはこれまでに報告されておらず、オトコエシの示す特異な変異性を示すものと考えられる。また、今回九州から初めて6倍体が観察されたが、この6倍体は通常の白色の花のみを付けるオトコエシと異なり、花序の中に淡黄色の花冠を持つ花が混じることで特徴づけられた。そのような花序をもつものは従来「オトコオミナエシ」として、オトコエシとオミナエシの雑種と考えられてきたものであるが、雑種ではなく、オトコエシの特殊な変異の可能性も考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は西日本を中心とした詳細なサンプリングをおこなった結果、1) 集団ごとに多様な細胞学的特徴を持っていること、2) 同じ(あるいは隣り合った)集団で異なる倍数体が含まれている事例があること、3) 「オトコオミナエシ」とされるものは、オトコエシとオミナエシの雑種ではなく、オトコエシの特殊な倍数体の一型なのではないか、ということが明らかとなった。したがって、この研究を始める時点で想定していた、1) オトコエシに関する、染色体の倍加に伴う進化と分布の変遷を解析するだけではなく、2) 異なる倍数体を維持する集団内での倍数性の維持機構、および 3)「オトコオミナエシ」の実体の解明、も同時進行で調べることが必要になってきた。 そこで平成27年度は、オトコエシに関して、1) 日本の近畿、中部、関東、東北地方の集団の解析をおこなうとともに、海外(韓国・中国東部)の集団も解析を進める、2) 同所的あるいは側所的に異なる倍数体を含む集団について、さらに詳しい解析を進め、さらに 3) 6倍体と考えられる「オトコオミナエシ」について詳しい解析をおこない、その実体を明らかにすることを進める必要がある。 また、DNAを用いた分子系統学的解析は、まだ予備実験の段階で、サンプルの抽出を続けている状態だが、平成27年度は本格的解析を進めていきたい。さらに、外部形態に関しても詳細に比較・観察をおこない、倍数性の違いと形態との関連性を検討する必要がある。
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