研究課題
この研究は、著しい種内倍数性を示すオトコエシ(オミナエシ科)について、分子系統学的・細胞遺伝学的・形態学的手法を用い、染色体の倍加を伴う植物の進化・多様化の様相を明らかにするとともに、過去の気候変動にともなう分布域の変遷を推定し、日本の温帯フロラの起源と発達について考察することを目的とする。平成27年度は、平成26年度までの調査により、九州地方・中国地方における細胞学的変異が大きいことが明らかになったことから、九州・中国地方を中心として現地調査をおこなった。また、海外における変異を調べるため、韓国において現地調査をおこなった。九州地方では、鹿児島県3集団、宮崎県3集団、熊本県2集団、長崎県2集団でサンプリングをおこなった。中国地方では、広島県4集団、岡山県1集団でサンプリングをおこなった。比較のため、長野県で1集団サンプリングをおこなった。また、韓国では17集団でサンプリングをおこなった。すべての集団において、1) 形態解析のための押し葉標本を作製し、2) DNA解析のために、葉をシリカゲルで乾燥させ、3) 細胞遺伝学的研究のために生株を採取した。染色体の観察の結果、九州地方には2倍体、4倍体、6倍体、10倍体、12倍体が、中国地方には8倍体、10倍体、12倍体が分布していることが明らかになった。また、韓国には2倍体のみが分布しており、西日本で細胞学的変異が大きい一方、韓国では細胞学的変異が小さいことが明らかになった。また、採集したサンプルを用い、分子系統学的解析をおこなった。その結果、9つのハプロタイプが認識され、大きく3つのクレードが認められた。1) 北海道から滋賀県まで分布する東日本系統、2) 近畿地方から九州地方まで分布する西日本系統、3) 九州南部・西部と韓国に分布する系統、であった。それぞれのクレードは染色体の倍数性と明らかに対応していた。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、オトコエシについて、細胞学的変異が大きいと考えられる九州・中国地方、および韓国においてサンプリングをおこなった。その結果、九州・中国地方において細胞学的に高い変異性が観察された一方、韓国においてはすべて2倍体であり、細胞学的変異は小さいことが明らかになった。また、今回初めて広範囲に系統解析をおこない、9つのハプロタイプが認識され、大きく3つのクレードが認められた。それらのクレードは染色体の倍数性ときれいな対応関係を示し、この研究の目的である、細胞学的変異と分子遺伝学的変異が深く関係していることが示唆された。
平成27年度までの調査により、オトコエシは、1) 日本においては、特に西日本において多様な細胞学的特徴を持っていること、2) 海外(韓国)においては、2倍体のみがみられ、細胞学的に変異が少ないこと、3) 分子系統学的解析により、大きく3つのクレードが認められ、クレードと染色体の倍数性との間には密接な関係があること、ということが明らかになった。今後は、分布域全体を網羅するようにサンプリングをおこない、染色体の観察と分子系統学的解析を進め、オトコエシにおける系統地理学的考察を進める必要がある。特に、1) 黄花をつけるオトコエシの実態を明らかにすること、2) 島嶼域(長崎県壱岐・対馬、島根県隠岐の島、東京都伊豆諸島など)における分化の様相を明らかにすることに重点を置いて解析を進める。また、これまで形態学的解析についてはあまり進めていなかったが、形態的変異と細胞学的・分子遺伝学的変異がどのように関連しているのかに関する解析も必要である。その上でオトコエシに関する分類学的取り扱いについても検討をおこなう。平成28年度は本課題の最終年度であることから、以上のことを進めつつ、オトコエシの進化・系統・分類に関する包括的とりまとめを行う予定である。る。
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