研究実績の概要 |
この研究は、著しい種内倍数性を示すオトコエシ(オミナエシ科)について、分子系統学的・細胞遺伝学的・形態学的手法を用い、染色体の倍加を伴う植物の進化・多様化の様相を明らかにするとともに、過去の気候変動にともなう分布域の変遷を推定し、日本の温帯フロラの起源と発達について考察することを目的とする。 平成28年度は、この研究の最終年度に当たる。過去3年間の研究から、オトコエシには、染色体数 2n=22, 44, 66, 88, 99, 110, 132 の連続した種内倍数性があり、葉緑体DNAの解析から、1) 九州西部と韓国に分布する系統 (2n=22)、2) 北海道から滋賀県まで分布する東日本系統 (2n=44)、3) 近畿地方から九州まで分布する西日本系統 (2n=66~132) の3グループがあることが判明した。その過程で、通常は白い花をつけるオトコエシの中に、黄色い花をつける個体や、黄色と白色の花を含む花序をつける個体を含む集団が存在することが判明した。そのような個体は「オトコオミナエシ」と呼ばれ、オトコエシとオミナエシの雑種と考えられてきたが、それがどのように生じたのかについては、明らかにされていなかった。そこで平成28年度は、核ITS領域を用いて、オトコエシの種内倍数体間の遺伝的多型とその交雑過程を明らかにすることとした。 解析の結果、22種類のリボタイプが確認された。特に西日本系統の高次倍数体において、そのうちの18種類のリボタイプが確認され、西日本で遺伝的多型が著しいことが明らかになった。また、オトコエシとオミナエシには遺伝的に明確な違いがあることも明らかになった。黄花や黄花と白花が混在する「オトコオミナエシ」は、遺伝的に完全にオトコエシの変異に含まれ、オミナエシとの雑種に由来するものではなく、オトコエシ種内における高次倍数体間の交雑によって生じたものと考えられた。
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