本研究の目的は、蓄積するゲノム情報によって構築された真正双子葉植物モチノキ目の花と雌雄生殖器官の形態、構造、発生形質の研究をさらに深め、その進化の全容を明らかにすることである。そのために、モチノキ目5科(フィロノマ科、ハナイカダ科、モチノキ科、ステモヌルス科、ヤマイモモドキ科)について、いろいろな発生段階にある花と果実(葯・胚珠・種子)を採集し、電子顕微鏡と樹脂切片の光学顕微鏡観察を行う。 本年度は、これまで進めてきたフィロノマ科の葯、胚珠、種子の発生の全般の観察結果をまとめて論文として公表した。フィロノマ科は、珠皮に維管束を欠くこと、細胞型内乳形成様式をもつ点で、モチノキ目の中のモチノキ科とハナイカダ科に一致しており、更に、薄層珠心をもつ点でハナイカダ科することが明らかになった。この結果は、ゲノム情報や形態の比較研究の解析結果とも一致し、フィロノマ科とハナイカダ科の姉妹群関係を支持する。しかし、フィロノマ科の種皮の構造はハナイカダ科のそれと明確に異なっている。すなわち、フィロノマ科では種子(液果で散布)は不規則に大きく発達し、厚い細胞壁をもつ外種皮細胞からなり、一方、ハナイカダ科では種子(核果で散布)は薄い膜質の種皮ももつ。フィロノマ科では虫媒で、ハナイカダ科では両媒(風媒と虫媒)であるというこれまでの研究成果と合わせると、本研究成果によって、フィロノマ科では送粉と種子の散布様式に関連する形質において、独自の進化を遂げてきたことが明らかにされた。 このほか、真正双子葉植物エンブリンギア科の花の構造とミカン科Harrisoniaの雌雄生殖器官の発生に関する研究成果をまとめて論文として発表した。
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